第33話
「おい、そこの馬鹿。やり過ぎだ」
高い声が室内に響いた。
カツカツと高いヒールを鳴らしながら入って来たのアリエルである。
「フルーラ・シエトルト。貴様は騎士団員でありながらあってはならないことをした。よってこの場で拘束する」
アリエルが宣言すると騎士達がフルーラを取り囲む。
「やってみなさいよ! 私はシエトルト侯爵家の娘なのよ⁉」
フルーラは開き直り、不気味な笑みを浮かべて胸を張る。
「証拠もないのに、私を拘束するなんてお父様がお許しにならないわ。シエトルト侯爵家が一体、どれだけこの国に貢献していると思っているの? 医療に燃料資源、食料に衣料品、建築工事、シエトルトがなければこの国の物流は止まり、生活が滞る。分かっているのかしら⁉」
その言葉に騎士達の歩みが止まる。
「なるほど。家門を笠に着ての愚行でしたか。やっぱり殺した方がいいですね」
「無駄よ! 私には魔力を遮断する結界石があるもの!」
フルーラは懐から紫色の結晶を取り出し、掲げて見せる。
「あれは!」
アリエルが結晶を注視し、声を上げる。
「これがある限り、魔法での攻撃は効かな―――」
「くだらない」
静かな声がフルーラの発言を妨げる。
地を這うような低い声に震えるかのようにバリンっと結晶が砕け散った。
「え……? う、嘘でしょう? 何で……?」
大きく目を見開き、フルーラは絶句した。
「これは偽物です。これが本物であればこの部屋は私の魔力に当てられてこのような状態になっていません」
冷凍庫のようになった医務課室、それはコーネリオの魔力による影響だ。
「あなたはバンス・メラニアから金と引き換えに結界石を受け取ったのでしょう。ですが、最初からそれはバンス・メラニアが作った偽物です」
「そ……そんな……」
わなわなと震えるフルーラに追い打ちをコーネリオは更なる追い打ちをかける。
「あなたがシエトルト経営の病院に入院しているグレゴール・マンシェットの母親を人質にして彼を結界石盗ませたことは分かっています。彼の邸から日記が出てきました。本物の結界石の欠片と一緒に」
「嘘よ! だって邸のどこにもそんなものは……!」
そこまで発言し、自分がしてはいけない発言をしたことに気付いたフルーラはハッとする。
「花壇だよ」
そう言ったのは騎士服を土で汚したグレルである。
「元副団長は日記と結界石の欠片を邸の花壇に隠したんだ。自身の魔力を込めた球根に日記と欠片を守らせていたから取り出すのに一晩かかっちまった」
ぐったりとした様子でグレルは言う。
「一体、どうやって見つけたのよっ」
悔しそうに奥歯を噛み締めて、フルーラはグレルを睨んだ。
「レイスティーさ」
「これがグレゴール・マンシェットが『レイスティー・リアを呼び戻せ』と言った理由です。彼は結界石の欠片を頼りに日記を彼女に見つけてもらいたかったのでしょう。魔力の匂いを嗅ぎ分ける特異体質の彼女であれば、必ず真実を明らかにしてくれると確信していた」
どうしてお前達が得意げになるんだと、アリエルは内心思ったがそこは黙っておくことにした。
「あの子の鼻は結界石の強い魔力で馬鹿になるはずじゃ……」
「彼女を舐めて貰っては困ります。強い魔力を前に一時的に鼻が使えないことはありますが、一度記憶した匂いは忘れません。今回は一年近く仕事から離れていたために鼻が慣れるのに時間が掛かったようですが、本来であれば城から匂いを辿って結界石の在りかを突き止めることくらい彼女にとっては簡単なことなのですよ」
コーネリオは冷ややかな視線をフルーラに向けたまま続ける。
「彼女の能力の高さも、危険を顧みずに民のために尽くそうとする気高さも、レイスティーとあなたでは比較になりません。その魔力も魔法薬での一時的な増強でしょう? それでよくレイスティーを馬鹿にしましたね」
語尾に『許しませんよ』と付け加えて凄むコーネリオを見てアリエルとグレルは引いた。
この男はレイスティーを侮辱した輩を決してタダでは済まさないのだと他の騎士達も心得る。
「ど……どうして、それを……」
「レイスティーが気付いたんですよ。魔法薬特有のシナモンの匂いがすると。あなたが治癒術を使う時は特に強く香るとね。あぁ、勘違いして欲しくないのですが、彼女はこのことを話してはいませんよ。私が無理に聞き出しただけなので」
「知っていて黙っていたということか?」
首を傾げるアリエルにコーネリオは微笑む。
「えぇ。『薬を使ってでも魔力を底上げして、みんなの役に立ちたいと思うことは罪ではないから』と言っていましたね」
「レイスティーらしいな」
アリエルが嘆息するとバタバタと騒々しい足音が聞こえ、誰かが室内に飛び込んできた。
「隊長! レイスティーの居場所が分かりました!」
慌てて飛び込んできたのはミラだ。
「どこです?」
「そ……それが―――――です」
ミラの言葉にコーネリオは言葉を失う。
そして抑えきれない殺気と魔力が溢れ出し、周囲の者達を絶句させた。
「た……隊長……その姿は……」
ミラや他の騎士達は驚き、騒然とする。
雪原を思わせる白銀の髪は艶のある漆黒に代わり、瞬く間に腰よりも長く伸びた。
伸びた前髪から覗く青い目には激しい憤りと殺気を宿し、触れれば凍てつく空気を纏い、近づくことを許さない。
シルヴァンが以前に言っていた『氷の悪魔』がそこにいる。
ミラはそんな風に思ったのだった。
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