第31話

 ミラの自宅に泊めてもらったレイスティーは一足早く騎士団本部へとやって来た。

 一度、寮の自室に荷物を置くためである。


 自室に荷物を置いて寮を出ると、待っていたかのようにフルーラと出くわす。

 まだ朝早い時間帯で、人はまばらだ。


「おはよう、レイスティー」

「おはよう。どうしたの? こんな時間に」


 フルーラは通いの団員で近くに別邸を持っていて、そこからの通勤だったはずだ。

 朝早く、それも寮で出会うことなど今までなかった。


「ついて来てくれる? 医務局長が確認したいことがあるから、あなたを呼んで欲しいって言うのよ」


「メラニア医務局長が?」


「えぇ。偽物の結界石のことで話があるらしいわよ」


「分かった。いつもの研究室かしら?」


「研究室じゃないわ。こっちよ」


 てっきりいつもの研究室かと思っていたのでレイスティーは違和感を覚える。


「ほら、早く行きましょう。待っているわよ」


 女神の如き微笑みでフルーラはレイスティーを誘う。


 偽物の結界石に関する話ってなんだろう?


 レイスティーは思い当たる節がなく、頭を悩ませながら歩いていると本部の裏門に向かっていることに気付いた。


 裏門は大きな荷物を運んだりする際に使われるが、この門を使う者は少ない。ましてや朝早い時間帯は人気がない。


「ねぇ、本当にメラニア医務局長がいるの?」

「えぇ。待っているわよ」


 真っすぐに前を向いたままフルーラが答えた。


 その時だ。

 薬品の匂いが鼻を突き抜けた気がした。


「んぐっ⁉」


 はっとした時にはもう遅く、背後から誰かに羽交い絞めにされ、布で鼻と口を塞がれる。


 次第に視界が歪み、意識がぼんやりとしてくる。

 脱力して膝を着いた状態でレイスティーはフルーラを見上げた。


「だ……騙した……の、ね……」


「騙していないわ。あの男、ここじゃない場所であなたを待っているもの。あなたなんかのどこが良いのか、私はさっぱり分からないけどね」


 そう言ったフルーラは心底嬉しそうだった。


「じゃあね。レイスティー。あの男の愛玩動物として、お幸せに。私は勿論、コーネの妻として幸せになるわ。結婚式には呼んであげられないけど、写真くらいなら送ってあげる」


 嬉々としたフルーラの表情を見たのを最後にレイスティーは意識を手放した。







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