第11話

 王宮の祈りの間は厳重に警護されていた。


 扉の脇を固める警備の騎士達に軽く挨拶を交わして扉の中に入ると反射的に顔を顰めた。


 広々とした部屋の中央に置かれた台座に大きな紫色の結晶が目を引き、濃密な香りが充満していて、立っているだけでクラクラする。 


「これが結界石です。今年の一般公開が終わった直後に一部を砕かれ、持ち去られました」


 コーネリオが指で示した場所が不自然な形に欠けているように見える。


「グレゴール・マンシェットは砕いた結界石の欠片を持ち、王宮を出た後に何者かと接触しています。彼はすぐに捕えましたが、彼が接触した者達の足取りがまるで掴めません。魔力を一切受け付けない結界石ですし、警察犬も導入しましたが当日は一般人が多くいたので役に立ちませんでした」


「なるほど……私なら足取りを追えるかもしれない…………ってことですね……」


 レイスティーは紫色に輝く結界石をまじまじと見つめる。


 見つめている最中、視界が歪んだ。

 頭がぼーっとして身体から力が抜ける。

 鼻から抜ける空気が脳を麻痺させ、四肢の力を削いでいくような感覚と共に身体が大きく傾いた。


「レイスティー!」


 耳元で焦燥感の混ざった声が響く。

 床に転倒する前に逞しい腕に抱き留められ、そのまま横抱きにされた。


「だ……大丈夫です……降ろして……」

「魔力酔いですね。外に出て少し休みましょう」


 横抱きにされた状態で祈りの間を出るとコーネリオは休憩用の部屋にある長椅子にレイスティーを優しく横たえた。


 鼻を中心に顔や頭が熱と怠さでぼんやりする。


 顔面を腕で隠すように押さえていると力の入らない腕をコーネリオが優しく退かし、レイスティーの顔を覗き込んだ。


「…………血は出てませんが……酷いですね」


 コーネリオの大きな手がレイスティーの頬を包み込むように触れる。

 その手が冷たくて心地よく、もっと触れて欲しいと思ってしまう。


「…………困った子だ」


 何かを必死に堪えるような、苦し気な表情でコーネリオは呟く。


「すみ……ません……」


 頭がクラクラして呂律が回らないレイスティーは何とか謝罪の言葉を紡いだ。


「問題ありません。ある程度は想定していましたから。…………入団当時のあなたを思い出します。よく魔力に酔ってひっくり返っていましたね」


 コーネリオは懐かしそうに目を細めて微笑む。


 魔力酔いを引き起こして倒れる度に、こうして介抱してもらった。

 コーネリオの手を煩わせるのが嫌で、魔力酔いを起こさないように耐性をつける特訓をしたり、酔い止めの薬を飲んだりと四苦八苦したのを思い出す。


「……お酒は酔わないのに……」

「ふふ。あなた大酒飲みでしたね」

「あなたはザルですけどね」


 酒の強さには自信があるが、飲み比べて一度もコーネリオに勝てた試しはない。


 コーネリオは優しくレイスティーの額や頬を撫で、波打つ黒髪をそっと梳く。


 冷気を纏った大きな手が触れる度に少しずつレイスティーの熱を奪って行くのが心地良くて、レイスティーは頬を緩めた。


「さぁ、少し目を閉じて。休んで下さい」


 耳元で落ち着いた低い声が優しく囁く。

 その声に誘われるように、レイスティーは重たくなった瞼を閉じ、意識を手放した。




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