第2話 懐かしい丸文字
あれから一週間経った。
会社に出勤はまだしなくていいと、同僚や上司から言われて家に居る。
ずっと何をしていいのか分からなくてノートパソコンをいじったり、本を読んでたりするが、脳に全く文字が入ってこない。
あれ程好きだった物がこうも脳内処理出来ずにいて、全くの無価値になってしまったと落胆していた午後。
ご飯は相変わらずのコンビニ飯だ。ゼリー飲料だけで済ます日もある。
買いに行くのが億劫になっているから、最近は同僚が買ってきてくれている。
薬は飲んでいるが効果が現れずにいて精神的にかなり参っているんだと今気付かされた。
俺は鏡を見て更にショックを受けた。
こんなにも痩せたのか。あれ以来まあ食事あんまり採れていないしな……
顔ももう白いのか、土偶色なのかも判断出来ない。
肩こりも、息を吸うのも肺が酸素で侵されているこの現状も苦しい。
上手く吸えない。吸っても苦しい。きつい。
筋肉もやせ細り、ウエストもだいぶただの皮膚と臓器と骨と言うことがハッキリした。
そして、毎日トイレの便座と向き合っている。
気色の悪い胃酸で口がいっぱいになり溢れては零れるの繰り返しだ。
込み上げてくるこの感情や症状はなんなんだ。
そして、部屋に戻ればまたトイレと往復してもう何をしているのか分からずにいる。
家に一人ぼっちとはこの歳になっても少し寂しいものなのかと思った。
昨晩は、猫の甘えた声が聞こえた。俺もそろそろなのかと。でも、彼女はそれを望んではいないだろう。
縁の部屋をたまに見渡す。
まだ彼女が居るような、生きてるような気がして虚無が孕む。足を踏み込んでみる。嗚呼縁の匂いがする。あの柔らかくて少し鼻に残るフローラルの香りが漂う。
そこから匂いがもたらした思い出に浸ってる。そうだな片付けないといけないよな。
縁の残した物を整理する。忙しかった彼女の生活は机にも少し表れていた。
俺は日記帳を見つけた。縁が何を記してたのか気になって開いた。そしたら四月のページのメモ欄に
『うそ、日記帳までも見つけたのね。
まあそうだと思って書いているんだけど。
今の季節はどんなだろう。
たまには花を置いてみてはいかがですか?
多分私が買ってたドライフラワーも買い替え時かもしれないから。』
俺は驚いた。縁は俺の行動を分かってこれを残してたのか? それじゃポストに入ってた手紙は……
しかも日記帳まで日記帳までもなのが引っかかる
俺は二週間前の俺宛の丸い字で書かれた手紙を読書机から取り出す。いや、読むか迷っている。だが縁が俺に書いた手紙だ読まねばいけないと分かってるだが……
俺は十分程手紙を手に取って悩んでいた。縁が最後に残していた物だ。いつも通りの縁だと信じて読もうかとマスキングテープを剥いで封を切った。
ねぇ 私がこうやって貴方に手紙を書く女だって知ってた?
そうね。私も最初は照れくさかったよ。だってこれを貴方が読むんだもの。多分貴方は驚いてるよね。他にも色んな所にメッセージ残してるから探検してね〜!
俺は心が痛いと同時に何か満たされてた。いつもと変わらない彼女の手紙だった。静かに目尻に涙が溜まって流れた。他にもメッセージ通りに日記帳を捲り探した。
すると別の所からも出てきた。俺は縁と出会った日を思い出した。そう、俺たちの始まり。
淡紅のインク 柳 一葉 @YanagiKazuha
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