淡紅のインク
柳 一葉
第1話 プロローグ
彼女が「海外に旅行に行くね」と言ったとき、俺は笑って「気をつけて」だけ言った。それが最後だった。五日後、仕事から帰ってきた俺に、大学病院から電話が掛かってきた。
あれからどう過ごしていたのか正直よく覚えていない。一週間は経ったらしい。コンビニで買い漁った弁当やパンも、もう腐ってる棄てないと蝿が来る季節になる。
ポストの整理しないといけない。俺は重い足を玄関に向かわせる。鉛のように足が沈む。サンダルを履いてドアを開けた。久しぶりに浴びた陽射しが焼き付くようだった。ポストには、折り重なるように新聞とチラシが溢れていた。その束を引き抜こうとした時
カサッと何かが落ちた。
目をやるとそれは、彼女の筆跡だった。しかも宛名は俺。眩しさの中で俺はその封筒をじっと見つめた。時間が止まったようだった。そして、鼻の奥がツンとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます