日異常
4:55yoake
第1話 還宅
木漏れ日を駆ける。右から左へと流れていく木々の間に差し込む陰から逃れるように、二輪車で風を切りながら走る。
いつかバイクを買ったらこうなるんだろうなという感想とともに真新しいアスファルトから杉の木々を流し見ながら先へ進む。
森の中特有の黒い地面から立ち上るまとわりつくような湿気を奥へ追いやっていく。手にかけたレバーが今はもう何も気にせずに遊んでいる。
少し前までさびれた田舎の能動だったこの場所には、急すぎる坂と、凹凸一つない黒々とした地面に土でくすんだ灰色の境界が引いてあるだけだ。
さっきまで必死で上った坂は、味方につければこうも頼もしいものなのか。
上る途中で出会ったような対向車には出会わない。ここは車一台すれ違うのでさえ苦労するような隘路だ。
道路舗装をする暇があったらさきに道幅を広くしてくれないかとさえ思う。
そんなのお偉いさんの考えることなんだろう。気を付けて走る場所を選ばないと、スピードも相まってすぐに大きく跳ねて道路の外に飛び出していくあの途が懐かしい。
そんなことを考えていると、木陰から出て、坂道も緩やかになって、いつの間にか田んぼに出ていた。
見渡す限り土で掘り返った田園にはまだ早い風景が広がる中を、古い畦道を補強してアスファルトを敷いただけのような道をペダルを踏み込む。
空を見ると、まだ少し青みの残った空に黒や白の様々な線が、夕日を山の向こうへ引っ張っている。
きっと明日は雨なのだろう。
途の半分くらいを過ぎたところで、回りを見る。
古びたビーニールハウスがぽつんと、古びたイチゴの看板をもったキャラクターらしき錆びた鉄板がその前に立っている。
遠くのほうには、何の特徴もない自転車や軽のワンボックスカーが止まっているくらいだ。
真横にはもう水の張った田んぼが朱色に染まりつつある藍色の空を黒や白の線が縁取っている様子を白くくすんだ解像度で映し出している。
波紋と一緒に土の香りが鼻をくすぐる。
汗で滲んだTシャツが無感情に乾くまで。足を止める。
信号に出て、忙しく行き来する車から目を背けながら、ペダルを漕ぐ足を地面に下す。
ここの横断歩道はいつも何もしていなくても、ボタンが押し続けられているかのように同じ文字を光らせている。待っていればそのうち青になるだろう。
ポケットからスマホを取り出して視線を落とす刹那。
遠くに映る白色の人影。
知らない。
なのに鮮明に思い出せる。
白すぎる肌、華奢な体。
麦わら帽子をかぶった白のワンピースの少女。
サンダルで駆けだす仕草に合わせて、左右に揺れる腰まで伸びた白髪、
―――きっともう戻らないから。
見間違えかな。まだ陽炎には早い。
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