第17話 2人(?)目の魔王

 突然の事にワンコの背中で頭が真っ白になる。幸い歩くのをやめ、コチラを伺う様に見ているので振り落とされずに済んではいるが。

 ワンコに努めて絞り出す様に聞く。


「いつから?」


「最初からだよ、魔王よ」


 犬の顔だからよく分からないが、おそらく雰囲気的に笑いを堪える様に返すワンコ。いや、賢狼ガルプと名乗ったのだ。この子の名はガルプなのだろう。このワンコの話が本当であるならば。だが。


「同じとはどういう事だ?ガルプ」


「お前が『魔王』から記憶を引き継いだ様に。私も『賢狼』から引き継いだのだよ」


「…しかし、お前は呪物らしきものを持っていないじゃないか」


 言ってしまえば裸同然なナチュラルボディだ。ペットの様な服を着ている訳では無い。


「呪物?ああ、アレか。確かに呪物と呼ばれてもしかないかも知れないな。アレは」


 ククク。と、喉を鳴らし笑うガルプ。


「私の額にあるだろう?コレがお前達が呪物と呼んでいる物だろう」


「この角か?」


 ガルプの額には立派な角が生えている。よく見ると若干カーブを描いているそれは、大きく立派な角だ。


「角では無い、『賢狼ガルプ』の牙だ。いちいち落として面倒だったのでな。頭に突き刺したのだよ」


「へ?」


 あんまりの事に変な声が出た。御伽噺に出るガルプはこんな脳筋な解決をする賢狼だっただろうか?ちょっとドヤ顔なのが腹立たしい。


「えっと…痛くない?」


 見たところ、だいぶ大きな牙なのだが。頭蓋骨を貫通して脳に届いているのでは無いだろうか。


「うまい具合に融合してな。痛くはない。たまに痒くなるし、ぶつけるがな」


「なる…ほど…」


 ドヤ顔のワンコに何も言えなくなる。若干憎たらしくなってきたな。


「それで、なぜ俺が『笑う魔王』と?」


「魔法では無い不可視の力を使う存在は、その魔王しかしらん。それに…」


 途中で言葉を区切る。なにか言いにくい事でもあるのだろうか。


「それに、なんだよ」


「ああ…。何となくなんだが、感じるのだ。魔王そのものという感じが」


「意味が分からん」


 賢狼と呼ばれた存在が曖昧な事を言い出した。


「言葉で表現しづらいな、こればかりは」


 顔を背けながら呟く。本能と呼ばれるやつなのだろうか。

 雰囲気で気付いていたとして、どうして俺に近づいたのだろう。


「それで?もし俺が『笑う魔王』だとして。お前はどうする?」


「別に?なにもしないが」


 顔を再びこちらに向けながら言うガルプ。その顔に警戒心や恐怖は無い。


「どうして?人類を追い詰めた魔王だぞ?」


 世界を滅ぼしかけた存在を背に乗せているのだ。


「あの魔王が暴れていた理由を知っているからな」


 ああ、なるほど。


「お前は、あの邪教徒共の事を知っているのか」


 言葉にした瞬間、体から何かが溢れ出す。どす黒く重い何かが。

 不可視の筈のソレが、体に纏わりつき。俺とガルプにのしかかる。

 

「やめてくれ」


 ガルプの鋭い声に我に帰った。先程の黒い幻視は風に流され霧散する。


「すまん。あちらに引っ張られた」


「気を付けろ。お前はお前であって、あの魔王では無い」


 気持ちは分かるがな。と、小さな声で続けた。

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いかにしてその帝国は滅びたか 無名 道化 @bakananasi

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