梅雨に現れる、聲の庭。

「失ったものは、形を変えてここにある」
この言葉が、何度も胸に沁みてきます。

読み始めた瞬間から、湿った空気に包まれたように作品世界に引き込まれ、まるで自分も紫陽花の庭を歩いているような感覚になりました。

押し花の脈動から始まる変化、祖母の言葉の奥にある意味、そして「聲」に導かれて見た異界のような梅雨の庭。
湿度の高い描写がこんなにも美しく、重なり、響き合っていくなんて。

心にずっと残っていた後悔や、表現することへの恐れ、それでも「描く」ことへ向かう姿がとても静かで、でも力強かったです。
梅雨の季節にしか訪れない、記憶の再生と心の再起動。そんな物語が、ここにありました。

幻想と現実の狭間で、やさしい感情に触れたい方に、この季節にぜひ読んでほしい一作です。