第6話 過去
あれから一週間が経った頃、ようやく伊勢崎が会ってもいいと許可をくれた。
姿見の前で緊張しながら軽く髪を整える。
ふと回復に向かう途中、伊勢崎が話してくれた話が頭を横切里、撫で付けた髪をクシャリと掴んだ、
本当に彼に会うべきなのだろうか・・・いや・・・会う事を許してくれるのだろうか・・・そんな不安が胸を締め付ける。
回復に向かっている中、何度も夢に現れた過去・・・そして伊勢崎が話してくれた過去・・・そして、初めて味わう感情・・・全てが自分自身を混乱させる。
だが、彼に会いたい・・・会わなくてはいけない・・・そんな思いが強くなるばかりだった。
———三日前
「伊勢崎・・・話してくれないか?」
「・・・・・・。」
「頼む・・・夢に出てくる姿は俺であって俺ではない。だが、確かに自分が犯した過ちなのだと感じるんだ。その理由を知りたい。夢に出て来るのは、顔がぼやけた『結弦』という少年と、その少年が泣いている姿だけだ」
黙々とベットの傍で仁の着替え終わった服を片す伊勢崎に、必死に懇願する。
「それに何故、伊勢崎には記憶があるんだ?」
その言葉に伊勢崎は動かしていた手元をピタリと止めた。
そして、しばらく無言のまま何かを考え込むように手元を見つめた後、ゆっくりと仁へと顔を向けた。
「私とて全てを知っている訳ではありません。それでも、聞きたいですか?」
覚悟を決めた様にそう話す伊勢崎に、仁は力強く頷いた。
それを見た伊勢崎は、また視線を手元に戻し、ゆっくりと話を始めた。
「伊勢崎家は先祖代々、楠木家に仕えているはご存知ですね?」
「あぁ。明治時代から続いていると聞いている」
「はい・・・。明治が終わり新しい時代へと差し掛かる頃、楠木家が商いを始め、その時に奉公として雇われていた私の先祖が、時代を超えて仕えてきたと私も聞いております。
仁様の夢に現れる過去は、大正9年・・・今から105年も前の話です。
当時、西洋の文化をいち早く取り入れた事もあり、楠木家はその頃には日本有数の富裕企業として名を轟かせ始めていたました。
そして、次の時代へと発展させる役割としての次期当主として名が上がっていたのが、長男である尚之介様でした。
尚之介様はとても聡明な方で、周りにも分け隔てなく接する事で周りからの期待を一心に浴びていたと聞いています。
そう・・・容姿も学問等の優秀さにおいても、今の仁様と瓜二つなのです」
伊勢崎はそう言い終えると、仁へと顔を向け、にこりと微笑む。
そして、畳み終えた服をベットの脇に置くと、すっと立ち上がりサイドテーブルの引き出しから一枚の紙を取り、そっと仁の手元へと置く。
そこには古びた写真があり、着物姿の男性が椅子に腰掛けこちらを向いていた。
その姿を見て、仁は息を呑む。
それは、伊勢崎が言ったように自分の生き写しではないかと思うくらい、瓜二つの人物がいたからだ。
「この方が尚之介様です」
そう伝える伊勢崎に仁は言葉を返す事ができず、ただ写真を食い入るように見つめていた。
「きっと仁様は、尚之介様の生まれ変わりです。似た方が何年か越しに存命しておりましたが、ここまで似ているのは仁様が初めてです」
「・・・何故・・・?」
「何故、そこまで言い切れるのか・・・ですね。それは、私達家系には代々受け継がれる物語と言い伝えがあるのです。いずれ尚之介様の生まれ変わりが誕生する。そして、万が一、まだ弓弦様が生きていらして生まれ変わりとなる方と会ってしまったら、弓弦様と引き離す手立てをする・・・それが、長きに渡る言い伝えです」
「・・・・・」
「そして、その言い伝えがいかに大事かを知らしめるために、何年かに一度、当時仕えた先祖の生まれ変わりが誕生するのです」
「生まれ変わり・・・・?」
「はい・・・。その役目を果たす者・・・とでも言いましょうか。言い伝えが薄れないように不思議と生まれるのです。その者は、幼少時代に決まって数日高熱を出し、当時の記憶を取り戻すのです。今、その役目は私になります」
「伊勢崎が・・・?」
「はい。ただ、正直に申しますと、本当に出会ってしまった今、私はどうしたらいいのか、分かりかねています。本来の役目を遂行すべきなのか、お二人を見守るべきなのか・・・・」
「本来の目的?」
仁の言葉にゆっくりと頷きながら、じっと目を見つめる。
「弓弦様を解放する・・・つまり、終わらせる・・という事です。意味は分かりますよね?」
伊勢崎が放った終わらせるという言葉に、仁は青ざめ激しく首を振る。
「ダメだ・・・まだ終わらせないでくれ。やっと・・・・やっと会えたんだ。まだ話したい事も聞きたい事もあるんだ」
目に涙を浮かべ懇願する仁に、伊勢崎は小さくため息をつく。
「仁様・・・あれはもう人ではありません。聞くことも話すこともできないでしょう」
「それでもだっ!それでも、まだ終わらせないでくれ!伊勢崎が全てを教えてくれ!全てを受け止めるからっ・・・それから、俺自身でどうするべきか答えを出すからっ・・・頼むから、時間をくれ」
必死の懇願に、伊勢崎は小さくわかりましたと答え、またぽつりぽつりと話始めた。
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