第10話
善意99の光が周囲を埋め尽くし、視界のすべてを奪う。だが、その中心に立つ俺は、陽菜から教えられた「数字じゃないもの」を胸に抱え、揺るがなかった。
「お前の善意99が本物かどうかなんて関係ない!」
俺の叫びが、数字の嵐の中に響く。光の渦が一瞬だけ揺れた。
「人間は、数字だけで動く存在じゃない!感情や想い、それが数字を超える力だ!」
善意99の輝きが再び強まる。だが、その中心で立つ男の表情が微妙に変わった。冷静さを保っているようで、どこか揺れているようにも見える。
「感情や想い?そんな曖昧なものが、この完璧な秩序に勝るとでも思っているのか?」
男の声が鋭く響く。その言葉に、俺は迷いもなく答えた。
「勝つさ。お前が作り出した“秩序”には、生きた感情がない。ただの数字の偽物だ!」
スケッチブックを握りしめ、俺はその中の絵を見つめる。陽菜が描いてくれた俺の姿。それは数字ではなく、俺自身をそのまま映し出したものだ。数字じゃなく、彼女が見てくれた「俺」。それが俺にとっての本当の力だった。
「数字じゃない“俺”を見せてやる!」
その瞬間、俺の胸の奥で何かが弾けた。善意99の光に押し込まれていた視界が一気に広がり、俺の周囲にあった数字が弾けるように散っていく。
男が目を細め、興味深そうに俺を見つめている。
「……ほう。君は“数字を壊す”力を持っているのか。」
彼の言葉にハッとした。そうだ、今の俺は数字を壊している。善意99を中心にしていた彼の秩序が、一瞬揺らいだのを感じる。
「俺が壊しているのは数字そのものじゃない……お前が作り出した偽りの支配だ!」
俺の声に反応するように、善意99がさらに揺らぐ。数字の輝きが収縮を始める。男はその様子をじっと見つめながら、初めて冷静さを失ったように見えた。
「なるほど……君には数字を超える何かがあるというわけだ。」
男が静かに呟き、善意99の輝きを収める。視界が急激に明るさを失い、静寂が訪れる。
「だが、君の力だけでは、まだ僕の秩序を崩すには至らない。君が本当に“数字の支配”を超えられるかどうか、試してみるといい。」
男は背を向け、去り際に言葉を残した。
「覚えておきたまえ、篠宮くん。君が僕に挑み続ける限り、君の数字もまた試されるのだから。」
そう言い残し、男は善意99の数字ごと消えた。
静かになった街の中で、俺は肩で息をしながら立ち尽くしていた。視界にはいつもの数字が戻ってきているが、その中に先ほどの異常な輝きはもうない。
「……俺の力……?」
数字を見るだけだった俺が、今、数字を揺るがす力を使った。その理由はまだ分からない。ただ、陽菜が言ってくれた「数字じゃないもの」を信じたことが、それを引き出したのだと確信していた。
「篠宮くん!」
遠くから陽菜の声が聞こえる。振り返ると、陽菜が走ってくる姿が見えた。彼女の目には、不安と安堵が混じった表情が浮かんでいる。
「大丈夫だった?あの人……」
陽菜の言葉に、俺は頷いて答えた。
「なんとかね。あいつは……まだ完全には止められなかったけど、少しは揺さぶれたと思う。」
俺がそう言うと、陽菜はじっと俺を見つめ、そっとスケッチブックを握る俺の手に触れた。
「篠宮くん、私、信じてるよ。君がその力で、ちゃんと自分を守れるって。」
陽菜のその言葉が、数字のない優しさとして胸に響いた。俺は深く頷き、彼女の手を握り返した。
「ありがとう、陽菜。俺……もっと強くなるよ。数字に囚われず、数字を超えた自分であいつに立ち向かう。」
その言葉を胸に、俺は新たな決意を固めていた。善意99の男との戦いは、これから本格的になる。その先で、俺が本当に何者なのかを知る時が来るだろう。
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