擬態妄想

岸亜里沙

擬態妄想

今日も私は、雑踏の中を足早に進む。

たくさんの人間の群れに紛れながら。

放射状に広がる幹線道路を横目に、雑音にも似た足音の残響を遮るかのよう、イヤホンを付けて歩く人々。

その光景は、まるで感情を失くしたロボットの行進かと、たまに錯覚する。

強烈な熱波で目眩を感じる度、私は人間に擬態をした猫なのだという妄想をした。

そうすると気分は、何故か落ち着く。

身軽に、しなやかに、あの壁をよじ登り、人々を見下ろす。

私は自由気ままな猫。

そうやって今日も、私は擬態ぎたい妄想もうそうを繰り返す。

みにくくも、はかないこの大都会で、気高く生きる為に。

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擬態妄想 岸亜里沙 @kishiarisa

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