第30話── 「録音の声と失われた夜」

録音テープから流れるかすれた声が、薄暗い通路に響いた。

「……10年前、あの夜。街は静まり返り、誰もが平穏を願っていた。しかし、真実は深い闇の中に隠された。」


ユリは目を閉じ、言葉の一つひとつに耳を傾けた。声の主は息を切らし、焦燥と後悔が混じったような語り口だった。


「私は、誰も知らないことを知ってしまった……息子を失い、罪を背負うことになった。だが、それはすべて表面の一部に過ぎない。街の嘘はもっと根深い。」


リクがテープの音量を調整しながら言った。

「声の主は間違いなくタカシだ。彼は最後に何かを伝えたかったんだ。」


ユリは震える手で、録音テープの隣にあった古い手帳を取り出した。そこには彼の日記の一部が記されていた。


「“真実は一人の命を救うよりも、多くの嘘を守ることに使われる”——彼の言葉だわ。」


リクは沈黙を破り、静かに話した。

「だから彼は“嘘の遺書”を書き続け、暗号を仕込んだ。誰かがそれを解き、真実を暴くことを願っていたんだ。」


突然、通路の先で微かな光が揺れた。二人が顔を見合わせると、そこには小さな鉄扉が現れていた。


ユリが扉を開けると、そこには真っ白なキャンバスが広がっていた。壁一面に描かれた絵は、街の廃墟と燃える火のイメージが交錯していた。


「“曇天の下で火は笑う”――これが、この街の真実の象徴なのかもしれない。」


リクは言葉を詰まらせたが、すぐに決意を新たにした。

「この絵の意味を解き明かせば、全ての謎が解けるかもしれない。」


二人は肩を並べ、深まる闇の中で未来を見据えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る