第2話──廊下に落ちた鍵
廊下の隅に落ちていたのは、
もう何年も誰も使っていないはずの、錆びた鍵だった。
それは誰のものでもないようで、
しかし確かに、何かを開けるためのものだった。
その男、イサクラが地下から戻ると、手にひとつの小さな紙片を握っていた。
それは集会で渡された「遺書の書き方マニュアル」の切れ端だった。
古ぼけて、紙の縁がまるで波打つように傷んでいる。
そして、そこに手書きの文字が、うっすらと見えた。
「影を追え、火曜の夜に。」
言葉は短く、謎めいていた。
イサクラは10年前のあの日を思い出す。
小学校の廊下。
息子の死の真相を追う自分。
だが、彼の罪を覆い隠す何かが、その鍵で開かれていることはまだ知らなかった。
彼が教壇に立っていた頃、教室の片隅にはいつも古い鍵が落ちていた。
誰も触れず、誰も話題にしなかった。
ただ、子どもたちの間で囁かれていたのは、
「先生が隠した秘密の扉がある」ということだけだった。
地下集会の遺書マニュアルには、その扉を示す暗号が隠されている──そんな気がしてならなかった。
イサクラは鍵を手に、暗く湿った地下道を再び見上げた。
そこに、次の“火曜会”の灯が揺れている。
火はまだ、笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます