救世の手柄を横取りされたのでもう一度世界を救う旅に出ます

えやみ

プロローグ:反省会

「…ったく、世界を救って得るものが口止め料だけとはね」そう言うと修道士オリーナは、受け取った手形を一瞥し、懐で込められた熱を振り払うようにその金属板を翻してみせた。乱暴にならぬよう丁寧にそれを取り上げながら、剣士カフラはオリーナの言い分に対して不服そうに頬を膨らませながら抗議する。

「これだって結構粘ったのに随分な言い草じゃない?」「それに、しばらくは生活に苦労の要らない額だよ。そう悪く言わないの」

「ハッ、相変わらずのお人よしだな」オリーナは冷笑し茶化そうとしたが、意にも介さぬ様子でカフラは続けた。

「…それに、世界を救ったといっても、魔王を封印しただけだ」

「疲弊し切った王国に復興へ回せる余力は最早なく、壁の崩れた北部では今でも魔王の残党が暴れてる。流域事故の影響で数も減らないし、魔王領から逃亡した有力な魔族も潜伏しているだけにすぎない。他の国も程度の差こそあれ軒並み似たような状況だ。太平の世とは程遠いさ」

「それでもカフラは世界を救ったじゃない。」目の前の英雄がすげなく扱われ、あまつさえ救世の偉業を自ら否定する様に、苛立ちを隠すこともなく魔導士ルヴィが口をはさむ。

「やり残したことは山ほどあるって話だろう。」オリーナのぶっきらぼうな説明を聞き、自虐の意図を理解して満足したのかルヴィも旅の結果に不満を漏らした。

「私も、結局フラムエール様に会えなかったわ」

「おとぎ話と世界の危機を同列に語るなよ…」呆れて口を開いたオリーナに対し、ルヴィは咎めるように声を上げた。

「何よ!フラムエール様は本当にいるの!!」

「ふふっ」

ともすれば長引き何にもならない応酬に、安心と懐かしさを覚えたカフラからこぼれた笑声が、二人のやり取りを遮った。

「やりなおしだね。私たちの英雄譚」

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