エピローグ

5-1

「遅い、四○分前に来るのが常識でしょ」

「なんでもういるの!? ねぇ!?」


 秋葉原デートの翌日。

 またいつも通りの時間に、鷺ノ宮さんと駅前で待ち合わせしていました。

 今までの経験から、鷺ノ宮さんが早めに来ていることは予想できました。

 だから三○分前には着く電車に乗ろうと準備をします。しかし、準備をしているうちに念には念を入れて、もう五分早く行こうと思い立ちました。

 その結果、集合時間の三五分前には到着したのです。


 それなのに!

 なんでこの人はもういるんですか!? 一体いつから待っているんですか!?


「あたしが待ち伏せしてるみたいな発言は不服」

「そうじゃないと説明がつかないでしょ!? 鷺ノ宮さん来るの早すぎだって!」

「…………」

「あのー、無言で足を踏むのやめてもらえます?」


 鷺ノ宮さんはいきなり不機嫌そうな顔をして、俺の足をぐりぐり踏みます。

 これが地味に痛いんですよ。


「……呼び方」

「あ……ごめん」


 そうでした。昨日の一件を経て、俺は鷺ノ宮さんのことを咲と呼ぶことになっていたのでした。ただ、まだどうしても慣れません。


「呼んで」

「……咲」

「じゃ、行くよ。俊介」


 咲の顔が一瞬ほころんだ見えましたが、すぐに振り返ってしまったので、よく見ることが出来ませんでした。もしかしたら幻かもしれません。

 さて、このままじゃ普通においてかれそうなので、急いで後を追いかけます。


「ちょっと、待ってくださーい!」

「こ、恋ヶ窪さん!? なんでこんな時間に!?」

「恋ヶ窪明音!」


 鷺ノ宮さんと通学路を歩いて行こうとした矢先、なぜか生徒会長の恋ヶ窪さんに捕まってしまいました。


「ぐ、偶然ですね! ……三○分前から待ち伏せした甲斐がありました。鷺ノ宮さんも同じ時間帯から待っていたのは想定外でしたが」

「あ、恋ヶ窪さん。この間はありがとう」

「いえいえ、無事に仲直りできたみたいで良かったです」


 恋ヶ窪さんは優しい顔で微笑んでくれます。


「……俊介。これはどういうこと?」

「あ、いや……それは……」


 事情を知らない鷺ノ宮さんが、物凄い形相で睨んできます。

 恋ヶ窪さんとのことは、俺にとってかなり恥ずかしいことだらけだったので、あまり説明したくないというか……つい言い淀んでしまいます。


「俊介…………なんだか想像以上に仲良くなったみたいですね?」

「ひぃ!?」


 恋ヶ窪さんもめっちゃ怖い! 

 顔こそは笑顔なんですけど、目が笑ってないです。


「俊介? ……未だに恋ヶ窪明音との関係はよく分からないけど、とにかく二人は怪しい。何としても問い詰めないと」

「江古田くん? ……調査によると、鷺ノ宮さんと秋葉原に行ったみたいですね。中学生の時、一緒に秋葉原に行くって約束したじゃないですか!」

「あ、あの、ごめんなさい!」

『待ちなさい(待ってください)!』


 よく分からないですが、怖すぎるので逃亡あるのみです。

 すみません。やっぱり、俺は臆病なままでした!

 人間そんな簡単に成長しないです! 

 俺は全力で二人を振り切ります。久しぶりに全力疾走しました。


「はぁ……はぁ……」


 振り返っても二人の姿はありません。

 とりあえず一安心、俺はゆっくりと歩きながら息を整えます。

 あの二人は一体何に対して怒っていたのでしょうか。皆目見当がつきません。


「あ、スマホ鳴ってる……たぶん咲か恋ヶ窪さんだろうな」


 ブーブーとスマホの振動音が鳴っています。

 いつまでも鳴り止まないので、これはおそらく電話ですね。


「(あれ、でもこれ知らない番号だ)」


 画面に表示されていたのは、登録されていない電話番号です。

 少しばかり不安ですが、無視をするのも忍びないので応答します。


「はい」

「遅いぞ、江古田。三コール以内に出ろ」

「樋口先輩!? なんでこの番号知ってるんですか!?」

「それは些末なことだ」

「いやいや! 俺のプライバシーにとって死活問題ですけど!?」


「江古田聞け」

「無視!」

「生徒会がまた動き出した! 会議をするから早く来い!」

「ちょ————」


 樋口先輩は一方的に通話を切ります。

 もう、一体なんですか! 意味がわかりません!

 また何かが始まったみたいです。


「はぁ……」


 でも、ちょっとだけ、ワクワクしている自分がいるのでした。

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【1作目】隠れオタクを探せ! あぱ山あぱ太朗 @apayama_apataro

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