第2話 シャロンの魔法

 ベルと話した次の日の朝、ペイザンは2階にあるシャロンの部屋の扉をノックした。


「おはようシャロン、いるか?

 お父さんと少し話をしよう。」


 部屋には木材で作られたベッドや椅子、タンスがある。

 自然に触れる事で魔法の力が開くと信じたベルが部屋全体を植物で覆っており、新鮮な空気と豊かな自然を感じる空間になっている。


 シャロンは部屋の扉を開け、にこやかなペイザンの目を見据えて言った。


「話って、私が上手く魔法を使えないこと?」


 驚いたペイザンは上擦った声で聞き返した。


「どうして分かったんだ。」


 シャロンは俯き、少し悲しそうに言った。


「お母さんが私のこと心配してるの、知ってるから。」


 2人共、ベッドに横並びに座って話を続ける。

 ペイザンはシャロンを宥めるように声をかける。


「お母さんはシャロンが心配で、色々考えているんだよ。

 もっと魔法に集中すれば使えるようになるんじゃないかと思うんだ。

 どうだ、お父さんと一緒に練習してみないか?

 と言っても、感覚でしか教えることができないが……なにかタメになることがあるかもしれないぞ。」


 シャロンは少し考えたあとベッドから立ち上がり、窓枠に置いてあった植木鉢を持ってベッドに戻ってきた。


「お父さんだったら、この植木鉢、元通り窓枠の所に置いてって言ったらどうする?」


 練習しないかと誘ったことを無視されたことに少し悲しみながらもペイザンは答えた。


「そりゃ、今シャロンがやったように、手で植木鉢を持っていくさ。」


 シャロンは手に持った植木鉢をしげしげと観察しながら話しを続ける。


「魔法は使えないってことよね。」


「使えないというか、使うと土と花だけ、中身だけしか運べないから、鉢が残ってしまう。」


「そう、普通はそうなのよね……。」


 その言葉にペイザンは、普通はとは何だ?と思いながらも次の言葉を待った。

 シャロンはしばらく考えた後、ペイザンに植木鉢を渡して笑顔で言った。


「お父さん、私なら魔法で植木鉢を窓枠のところに戻せるわ。」


 言い終わるや否や、シャロンは植木鉢に片手をかざす。

 植木鉢はペイザンの手からフラフラと浮き上がり、ゆっくりゆっくり窓枠の方に向かっていく。

 シャロンは植木鉢について行きながら、手をかざし続ける。

 額には汗が滲み、手が震え、息が上がっていく。

 その様子を、ペイザンは息を呑んで見守っていた。


 植木鉢が窓枠に置かれ、シャロンは力尽きたようにへなへなとその場に座り込んだ。

 ペイザンはハッとして駆け寄り、シャロンの肩を抱いて言った。


「凄いぞシャロン!

 土と花を上手くコントロールして運んだのか!?

 どうやってやったんだ!!」


 シャロンは息を整えながら答える。


「お父さん、違うわ。

 私は植木鉢しか運べないの。

 運んでる最中に植木鉢がひっくり返ったら、中の土や花は床に落ちてしまう。

 色々と試してみたんだけど、私は人工物しか操作できないみたい。」


 ペイザンは目を見開いて言う。


「何を言っているんだシャロン。

 人工物は魔法で運ぶことができない。

 知っているだろう?

 今のも、土を植木鉢に押し付けるとかで上手くコントロールしたんじゃないのか。

 だとしたら素晴らしい技術だ。

 どうして黙っていたんだ?」


 少し苛立ったシャロンが反論する。


「人工物を操作できないことくらい知ってるわよ。

 でも、現に私は人工物しか操作できないの。

 何度も試したわ。」


 シャロンは両手をベッドに向け、渾身の力を込めてベッドをわずかに浮かせて落とした。

 大きな音がした。


 1階で朝食の準備をしていたベルが物音に驚いて駆けつけ、ドアをノックする。


「どうしたの!

 シャロン、大丈夫?

 開けるわよ。」


 窓際でへたり込むシャロン、その傍で言葉を失っているペイザン、困惑するベル。


「一体何があったの?!」

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