失敗続きの魔法研究〜伝説の秘宝を探して〜

@piyopillow

シャロンの物語

第1話 シャロンの誕生

 ここは魔法という不思議な力が当たり前になった世界の小さな村。


 魔法は、自然にあるものを操作する力。

 人が手を加えたもの、つまり人工物を操ることはできないのは周知の事実である。


 村は農業に適した土地だったので、魔法で土を耕し、苗を植え、水を撒き、収穫することで生計を立てる家庭が多かった。

 近隣の村と物々交換をすることでより豊かに、平和に暮らしてきた。


 村の中でも特に大きな土地を持つカーター家。

 夫はペイザン、妻はベルといい、とても働き者であった。

 もちろん農家で、魔法も得意な夫婦だったので様々な野菜を育て、村の助けとなることで皆に慕われている。


 春の始まりを告げる花が咲いた頃。

 カーター家に娘が生まれた。

 とても可愛らしい、金髪碧眼の丸々とした可愛い赤ちゃんだった。

 この村では長老が生まれた子の名付けをするしきたりであったので、夫は赤ちゃんを長老の元に連れていって深く頭を下げてハツラツと言った。


「ペイザン・カーターです。

 この度、妻のベル・カーターとの間に娘を授かりましたので、長老にお見せしに参りました。」


 長老は愛おしそうに目を細めて赤ちゃんを見つめる。

 そして、父となったペイザンに告げる。


「カーター、君の家はいつも多くの野菜を収穫してくれる。

 その功績は大変素晴らしいもので、村の皆がそなたらに感謝している。

 とある国の言葉で【森】を意味する【シャロン】と名付ける。

 花が咲き乱れる肥沃な土地を表現する言葉だそうだ。

 君の娘の将来が、光に包まれたものでありますように。」


 家に帰るペイザンに、村人は口々に声をかける。


「ベルさんを労わってあげてね。」

「ペイザンもいよいよ父親か。頑張れよっ。」

「素敵な名前をつけてもらったのね。」

「なんて可愛い子だ。」

「ベルさんもペイザンさんも魔法が得意だし、きっと魔法が得意な子になるわね。」


 しかし一人娘のシャロンは生まれた時から、変わった子供であった。


 通常、生まれてから5年もすれば魔法を使うことができるようになる。

 両親は才覚があったので、2~3歳の頃から水や土を操ることができた。

 シャロンも当然その頃には魔法を使うだろうと思われていた。


 しかし、シャロンは10歳になっても魔法を使えなかった。

 長老からは、両親が与えられたのと同じくらいの大きな土地が与えられていた。

 これは魔法が得意であろうという期待の表れであったが、それに反してシャロンは砂粒ひとつも動かすことができなかった。


 農業に本格的に参加するのは18歳になってからなので、それまでに魔法を習得できれば良いのだが、両親は焦っていた。


 ベルはシャロンの将来を不安に思い、震えながらペイザンに話す。


「あなた、どうしよう。

 シャロンは全く魔法を使えないみたい。

 他の子はみんな使えてるのに、うちの子だけおかしいわ。

 魔法が使えないなんて知られたら、いじめられるかもしれない。

 コップなんかもよく落とすし、家具にぶつかることも多くて、注意力散漫で、魔法を使うための集中力が足りないと思うんだけど、どう思う?」


 ペイザンはベルの言うことに一理あるとは思いながら、人それぞれ成長のスピードは違うのだから、シャロンにあまりプレッシャーを与えても可哀想だと思い、語りかける。


「僕たちの子なんだから、魔法が使えないなんてことないよ。

 誰でも使えるし、僕たちは魔法が得意なんだから、きっと大丈夫だ。

 ベル、君が不安だと、不安が伝わってしまうから、あまり考えすぎないようにね。

 また僕がシャロンと話してみるよ。」


 ベルは不安そうに頷いた。

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