第5話 番外編 ズレ神誕生?

よし、履歴書書いたし、一応職務経歴書もかいた、バイトやけどな。

あとスーツも着ていくか、いや待てよ。バイトの面接で、

スーツ着ていったら、昔なんかえらいディスられたことあるし、

カジュアルジャケット着るだけにしとこか、


 片橋 優二はそういって軽やかにジャケットに手を通した。

軽やかにって、なんやろ、と自分で思った。


 えーと今日の面接の場所はと、難波か、南海にのって1本やな。

なんのバイトやったっけな?

あ、そうそう居酒屋や、居酒屋とか初めてやし緊張するな。


 はい、よろこんでとかいうんかな。

まあそれぐらい言えるわな。


 「おかん行ってくるわな」

遠くから「はーいいってらっしゃい」という声が聞こえた。


 電車の窓から見える景色は、最初は畑や田んぼだったのが、

だんだん住宅街になっていく。

なんだかだんだん都会に、近づいてると思うと、憂鬱な気分になっていった。


 なんや憂鬱や、オエってなる感じする。緊張で。

とはいってもその憂鬱さと同調するようにどんどん都会に景色は変わり、難波に到着する。


 久しぶりやな難波くるの、まあ友達少ないし、遊びに出る機会もあんまりないしな。

あいかわらず難波は人が多い、人だらけや、まあ東京とかってもっと人おるんやろか?


 えーと居酒屋 丸酒堂 やったな。そうここやな。

扉を開けた途端、「いぃぃらしゃいませーーーーー!!!!」


 なんてでかい声なんやきんきんするな。

 「あの......」


 「一名様ご案内です。フォーーーいらっしゃいませーーーー!!!」


 「いやあのちが.......」

っていいかけても。


 「お客様こちらの席にお座りください。本日はご来店いただき誠に、誠にありがとうございます。」


へんな人やな、それに人の話聞かんなこのひと。


 「いやだからで....」


 「お席2時間制となっております。ご注意ください フォーーー ではお飲み物伺います。」


 「いやだからめ....」


「名酒一覧でございますか、こちらに当店自慢の名酒そろっております。

  特にこちら月夜桜、といいますが最高でございますフォーーー」


と全く話聞かんなこの人、片橋 優二はどう切り出そうか困っている。


そんな悩んでいるお客を見て店員の男は、

ははーん、このお客さん優柔不断やな自分で決められへんたちかな、よしワイがきめたろ。


 「お客様こちらでよろしいでしょうか?名酒 月夜桜で。」


 うーんどういったらいいんやろとうーんと考え込む、片橋 優二がうーんとうなってるのを見逃さず店員はまた勘違いして


 「うーんそれがいいということですね。あざーーーーます!!!」


 「月夜桜、はいります。はいよろこんで!!」


あっちこっちから、はいよろこんでコールが聞こえた。


 あっやっぱ、はいよろこんでっていうんやな。と変なとこで納得してしまう。

でもあの店員のフォーーーってなに?しかもビブラートきいてるしええ声やな。

と現実から逃避するように考えていると。


 「はい、こちらが月夜桜になります。」


 「はあ...ありがとうございます。」


まあええか、とながされて、月夜桜に口をつける。


さっぱりした飲み心地の中に、ほのかに香る桜の香り、飲みやすくうまい。


 「うまいこの日本酒、さすが名酒といわれるだけあるは。」

完全に面接のこと忘れそうになってると。


 「こちら今日のお通しになります、きくらげときゅうり春雨の酢のものです。  

  フォーーーーーーォォーーー」

 またへんなフォーーーーでたな無駄にええ声やな、ビブラートも心地いいわ。


ってちゃうで片橋 優二、おまえ面接に来たんとちゃうんか?


ズレとるズレすぎや、もうズレの神、ズレ神と名乗れんのちゃうか。


でも酒も飲んでお通しもでてきてなんかもうそんな気分じゃなくなってきたな。


まあええわ。


しかし人の話聞かん店員やな。あれでよう接客務まるな。


 「あ、すいません。」

お、フォォーーーーの人、気づいたみたいで、注文取りに近づいてくる。


そのときネームプレートに目がいった、そこには 橘 親太朗って書いてあった。


しかも店長って書いてあった。



 俺は絶句した、この人の下で働かないでよかったって正直思った。


「あの、月夜桜もう一杯、冷で、あときょうのおすすめ、なんかいいのありますか?」






「お客様お帰りです、あざーした、フォーーーーー!!!」



はー酔っぱらったな、飲んだ飲んだ、

片橋 優二はすっかり酔っぱらっていて当初の目的も

フォォーーーーーとともに消え去った。



次の日、起きてからすぐ丸酒堂のこと調べようとしてたが、

ネットに引っかからないし、

電話も何時かけてもおかけになった電話番号はただ今使われておりません状態で



店のあった場所へも行ってみたがそこには店舗らしきものはあったが

今使われてなかった。


まるで狐に化かされたみたいだった。



 「なんやったんやろ。ああ白昼夢でもみたんかな。」


おもむろにテレビをつけると、テレビショッピングをやっていて、月夜桜の紹介をしていた。


そこにあの橘 親太朗がでていて、フォーーーーってあいかわらず言ってる。



この日、俺の中でズレ神は生まれたんやな。

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