第2話 結婚式の温度がそろわない
「そろそろですね、緊張してはります?」
新郎の緊張をほぐすのもこの仕事では重要なことや。
「そうですね、多少は。」
うんやっぱ緊張するよな、一生に一度のことかは不明やけど、おっと縁起でもないことやった。失敬失敬。
「そらそうですよね、私も同じ立場だったら、緊張で水も飲めへんかもしれないです。」
こんな晴れ舞台やのに、うかない顔の新郎。
「まあそれもありますが、実のところ......」
ピリリリリ、ワイの仕事用のスマホが鳴った。
「はい、親太朗です、え、わかりました。すぐ向かいます。」
「すいません、ちょっとトラブルあったみたいで、
たいしとこやないとおもいますが、すぐもどります。失礼いたします。」
「わかりました。」
新郎は浮かない顔をしながら言った。
うーんなんかひっかかる表情やな。まあええわまた話聞くとして、今は応援に行かな。
「いやーたすかったよ。君ホント有能だよね。」
正社員の柴田さんがワイを褒めてる。えっへん、そやもっとほめてや、
これでも神やで崇めてもええんやで。
「でもさ、すぐ調子のるところって昔からかわってないよねって、
あれ?昔から?うーんまだここきて、1週間もたってないよね君?」
「そうですね、まだこのバイト1週間目の新人です。」
ふうーあぶな、時空神様にいって時間歪めてもろたのに、
なんで記憶残ってるんや、残滓かな。
「じゃあぼく、もどります、新郎さんのところに。」
「わかったご苦労さん、ありがとね。」
と危ない場面があったが、新郎のところに戻るか、なんかあの表情気になるわ。
「ふうー....里佳子はずっと楽しみにしてたし、
ちょっと俺が我慢すればいいことだし。」
おっいたいた、めちゃさがしたでほんま。やっぱでもなんかあるんやな。
これは俺の出番かもな。
「あ、そこにいてはりましたか、さがしましたよ。」
あいかわらず浮かない顔やな、せっかくの晴れ舞台やのに、
よしちょっと探り入れてみるかな。
「ああ、すいません控室じゃ息が詰まって、タバコ吸える場所ないかなっておもって。」
「いまやどこでも禁煙って感じですもんね。息も詰まります。
なんかうかない顔してはるなっとおもってたんですが、
タバコ吸いたかったんですね、わかりますよ。
ええ僕にはわかりますよ、その気持ち。」
「いやあのちが.....」
「そうですよね、昨今肩身せまなるわ、たばこ高なるわで、
僕たちの居場所どこなんやろって感じようわかります。うんうん。」
わかるわかるでその気持ちワイも、肩身狭いものの気持ちようわかる、
そやねん冷遇されとんねん、やれあっちいってこい、つぎはこっちやって、
ワイに神権ないんかい、休みないんかい。
ほんまわかるはその気持ち。
「いやあのですねちょっとき.......」
「うん、よし新郎さんタバコ吸いに行きましょう、盛大に吸いましょう。」
うん?なんか言いかけた気するけどまあええわ。
きっとタバコ切らしてるっていいたかったんやろ。
「いやあのちょっと......」
「わかってます、タバコ切らしてるんですよね、僕持ってますからだいじょうぶです、
なんやったらカートンごと買ってきますよ。安心してください。」
「さあさあいきましょうこっちですよ。」
新郎さんの背中を押して喫煙所へ向かった。ほんと世話のかかる新郎やで
タバコないならないっていってくれればいいのに、なに口ごもってんねやろ。
「さあ、思いっきり吸ってください。火つけますね。」
「ありがとうございます。」
まあでもよかった、これで、イライラも収まって式に集中できるんちゃうか。
「じつはご相談がありまして。」
相談?? なんや相談ってたばこ吸いたい問題解決したやろ、
うーんなんやろ、あ、冷遇されとるのは変わらんもんな、
たしかにその問題は解決できんわ。
「うん、わかってますよ。」
「はい?」
「喫煙者の冷遇問題ですよね、それはちょっと管轄がちがうんですよね、
娯楽神の範疇かな、だれ担当やったっけ。ちょっと待ってくださいね。」
「えーとうーんと、あ、やっぱり娯楽神ですわ、
その下の快楽神とかもかんでるかな
あと匂い神これは違う部署やけど、どうなんねんやろ、うーん。」
「すいません、何の話ですか、僕が言いたいのは.....」
あ、やばい 神界のことは人間には内緒やった、どうしよう、あ、そやそや、
最近見た映画の話ってことでごまかすか。
「ああ、すいません、最近見た映画の話ですわ、
いろんな神さんが出てくる話でなかなかおもしろかったですよ。」
「そうなんですね。はは、あなたって面白い方ですね。」
「よう言われます。」
ふうーあぶなかった何とかごまかせたみたいや、あぶないあぶない、
こればれたら最高神からゲンコツかな。
ひええーこわいわ、痛いもんなあの人のゲンコツ。
「なんか気持ちが晴れました。ありがとうございます。」
「いえいえ、私も助かりました。」
「はい?何がかわかりませんが、面白い方ですねやっぱり」
それから式がはじまった。
「里佳子ごめんな、おれ結婚式ちょっと面倒だと思ってた、
でもそれでもいいんだって、
気持ちがぴったり合わなくても、俺は……ちゃんと、君を幸せにしたい。」
「うん、わかってる。」
つつがなく式は終わり、ワイもひと段落ついた。
「やっぱたばこって匂い神担当やったわ。
ええ式やったけど、新郎、喫煙者の代表みたいな人やったな。
タバコ吸いすぎ注意やで、みんな。ほんまに。」
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