生徒会の幻想

[未来と生徒会長]

 春、新学期がはじまると、すぐに生徒会室に集まった新三年と二年のメンバーは、それぞれペットボトルを持ってきていた。持ってくればいいだろうというのはもっともだ。

 だからといって、未来はわざわざ自販機導入する「討論」なんているのかなと考えることがあった。特に最近そう考えることが増えた。これまでの上級生がしてきたことを否定できないけど、討論までして導入する必要なんてあるのか。

 そんなことに懸命になっている自分たちは、傍から見て笑われてるのではないか、どうなんだろうかと思ってしまう。他学は学校が置いてくれてるのに、伊都高校だけは議論で手続きを踏まなければならない。


 生徒会で何をしましたか?

 自販機を導入しました。


 運動部などは、持ってきたとしても放課後には空っぽだということである。朝練などで、放課後まで量を保たせることはできない。お茶汲みの当番すれば?ということも言われたが、麦茶を沸かし、購買部や食堂に対して冷やすまで冷蔵庫を使わせてもらえないとのことだった。それにしても……だ。大人な判断で導入すればいいんじゃないのかと思う


「津波来そうですか?」

「太平洋沖で地震みたいだね。帰るときまでわからないけど。ここ避難場所だしね」

「急いで来たんですけど」

「今んところ避難してきてる人いるのかな」

「途中車が上がってきてました。遠い地震だし」

「会長、入学式の原稿できたんだが、チェックしてもらいたい。今読み返してる。自分一人じゃわからないんだ。読んでもらいたくてコピーしてきた。今さら大幅に内容までは変えられないけどね」


 現会長は三年生で、大学受験を控え、これが現実問題として最後の仕事になる。未来も現会長の原稿を楽しみにしていたので読んだ。

 現会長はルックスもよく、性格も穏やかで、いろんなところで惚れられている噂話を聞いた。未来も登壇した彼に憧れた口だが、こうして生徒会活動で近づきすぎて、何も言えないまま一年を過ごしていた。


 各部活動廃止問題。

 自販機問題。

 釣り部新設問題。


「昔からの部活でも廃部するところもあるのに新設なんて認められないしなあ。春休み前に書道部が休部届を出してきたんだよなあ」

「予算ですか?」


 未来は何となく尋ねた。


「だね。指導者も来れないし、学校でするくらいなら書道教室に通うらしいよ。同級生が言うにはね。はじめはOBが、何とかするとは話してたけど、専属でもないしね。どうしてもバラバラになるよ」

「今さらですけど、討論や話し合いに意味あるんですかね」

「俺もたまに考えた。妥協点探すのには意味がある。言葉は高校生が唯一手に入れることのできる武器だ」

「そんなもんですかね」

「専制君主はいらないだろ?」

「学校は君主制ですよ」


 未来は、これまで誰かのためになったことなどないし、小中学生の生徒会は名前だけの会長で、実際に何か取り組んだのかと問われても言えることなどまったくない。

 高校の生徒会に入ると、すべてが変わったような気がした。はじめのうちは話し合いや討論、交渉ごとなどすべきことを楽しめた。現会長や上級生が大人と対等に戦っているように見えた。しかし……これこそ幻想だ。大人が子どもに与えた玩具だ。生徒に何もできていない。大人たちに守られた檻の中、ごっこ遊びをしている。


「さ、解散するか。何か気づいたことがあればSNSで教えて」


 生徒会長がポンッと手を叩いた。

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