第2話 風紀委員の女子が現れる

 ――俺が彼女とはどんな接点があったのか? それを説明する。

 

 きっかけは、入学式から翌日のオリエンテーションからだった。それは2クラス合同の交流会だ。そこで彼女と出会った。広い体育館で立ち話をしてワイワイガヤガヤといった状況だった。


 俺と桜井は不思議と仲良くなった、と思う。


それは桜井から話が始まっていた。 

例えば、こんなことを言われた。


『どこの中学出身?』

『中学生活はどうだった?』

『部活は何をやってたの?』

『私最近これにはまってるの、青山君、どうかな?』


 彼女は本当におしゃべりで、明るくて朗らかだった。

 俺はそれに臆することはなかった。ちゃんと受け答えが出来たし、とにかくすごく楽しかった。


 でもそれ以降、桜井と話をする機会は訪れなかった。

 俺はあの楽しかった時の事が忘れられなかった。

 

 隣のクラスということもあって教室を覗きにいくぐらいしかできなかった。声をかける勇気がなかった。その時に教室にいた他の男子に呼び止められたが、気まずくなって自分の教室に逃げた。


 それから6月になる少し前。俺はどうしても桜井に近づいて話がしたくて、彼女の後をつけていたんだ。


 これは本当にヤバいことだった。

 学校の帰り道に彼女の後をつけていた。50メートルくらい離れて歩いていたと思う。彼女が角を曲がると見失わないように急いで付いていった。彼女が家に着いた時、俺はそばの電柱に隠れて部屋の灯りが着くのを待った。すると彼女は窓を閉めてカーテンを閉めた。


 そうなるとその日、俺は桜井と話が出来なかったと後悔するだった。とにかく俺は桜井と話す機会が欲しかった。


 俺はこれ以降、学校の帰り道で桜井の後を付けるのを習慣にしていた。


※※※


 ――話の背景はこんな感じだ。どうだろう? ヤバイ奴だ。

 じゃあ、時間を現在に進める。


※※※

 

 俺は図書室から階段を下りて昇降口まで来ていた。

 これまでのことを振り返ってみると、それはストーカーで犯罪行為だった。何て迷惑なことをしたんだろう。気持ちが悪い奴だ俺は。彼女をそれで怖がらせてしまったんだ。


 その時の俺は罪悪感が募っていた。


 はぁ。息を吐いた俺は昇降口の下駄箱から靴を取り出して、コンクリートの床に落とした。そして傘を広げて外に出た。


 すると、背後から声がかかった。


「本当だったら、警察沙汰になるところよ」


 俺が振り返ると、ロングの黒髪の美少女が立っていた。右腕には風紀委員の腕章があって仁王立ちだ。

 彼女の背後には桜井の姿があった。俺に怯えているようだった。


「私は風紀委員の北野咲きたの さき。警察じゃなくてよかったわね」


 そう言った彼女は警察手帳じゃなくてイエローカードを俺に差し出してきた。


 そう。その時俺は思い出した。

 この学校では、生徒会の次に風紀委員の権限が強い。そして、生徒の問題行動の取り締まりも、そこに属する生徒がしていた。 

 問題の大きさによって風紀委員がカードを提示し、イエローカードは厳重注意、レッドカードは退学勧告だった。


「次もやったら赤になるから。そのつもりで学校生活を過ごしてちょうだい」


 北野咲は俺にイエローカードを手渡した。


 俺の高校生活終了、人生が終わったかのように思えた。まるで、足元のタイルが抜けてそのまま沈むんじゃないかと思えた。


 対して厳しい態度で挑む彼女が本当に刑事のようだった。正義感に強く、友達想いのありそうな彼女が上級生には見えなかった。ただ、言い終えた後の北野の視線が気まずそうだった。


 その時人生は終わったかのように思えたが、俺は彼女が優しい女子であることに涙した。救済処置を施してくれているように感じたんだ。だから桜井に迷惑なことは止めよう。そう思った。


 それで桜井に謝りたかった。だから俺は次の日にある行動をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る