第二十四話:命の届く限り、根となって

【SE:静寂。風も音もない空間――ただ、根の鼓動だけが響く】


「そう、この地の“根”に、命が届く限り」


響の声は、空に、地に、染み込むように放たれた。

もはや誰かに語りかけているのではない。

この地そのものに、自らを溶かしていく宣言だった。


祭壇の根は、もはや個としての動きをしていなかった。

それは、響の鼓動に応え、

響の記憶を引き継ぎ、

そして――響の言葉を、“名を刻む声”として世界に伝えていた。


「咲かせるのではない。

咲いてよかったと、忘れずに言い続けること」

「贄とは、犠牲ではなく、語り継ぐ者」


【SE:鳥の羽ばたく音。夜明けが近づく】


少女「縁」は、静かに手を伸ばし、響の手を取った。


「もう、あなたは“贄”じゃない」

「あなたは、咲いた私たちの“語部(かたりべ)”」

「咲かされた者の、最初の“継承者”」


「……ありがとう、響」

「あなたがいたから、私は“無”で終わらずに済んだ」


【SE:祠の上空。雲が割れ、月と朝日の狭間の光が差す】


響の身体は、ゆっくりと透けていく。

けれどそれは、消滅ではなかった。

“地と根に還る”ことだった。


彼女の記憶は、言葉は、名は――

この土地に、根を通じて生き続ける。


──次に、忘れられた名があった時、

 また誰かがここを訪れるだろう。


──その時、響の声は風として届き、

 “その名を、呼んであげて”と静かに囁くのだろう。


【SE:鈴の音。やがて、完全な夜明け。鳥たちのさえずり】

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