いつか音名になる

葉のuragawa

剥製の出会い

 鹿がいる。その鹿の角が湖に流されてしまい、角は剥製となった。その湖もやがて干からびてしまった。湖の底には、小さな村があるという言い伝えがあった。その代々受け継がれてきた「言い伝え」を、彼女は誰にも言う事なく、守っていた。その村が、ある日突拍子もなく現れたのだった。それは日が沈んだ頃だった。その日の沈む頃、向こうの方にある川の上にある橋で、飛び降り自殺をしようとしている子がいるのを彼女は発見した。その子を彼女は、橋の手摺から下ろし、自殺を引き止めたのだった。

 彼女の名は「弓弦(ゆみづる)」と呼ばれ、その名の通り、弓に張られた弦が由来である。弓弦は自殺をしようとした子にこう言った。

「君。まだ若いじゃん。どうして自殺なんて…。」

その子が言う。

「…。今まで死んでいった人達が空から見ている。それも、無数の目。星の数ほどの目。とてもそれが怖いんだ。」

弓弦は問う。

「君にはその目が見えるのかい。」

その子が答える。

「見えないけど…。でも、夜の空ってすごく広くて、大きくて圧倒される。」

弓弦がまた問う。

「君の名前はなんていうの。」

その子は答える。

「音名(おとな)といいます。」

弓弦は驚く素振りを見せた。

「おとな…。音名ちゃんって呼んでもいいかな。変わった名前だね。」

音名は言う。

「両親が、大人になって欲しいっていう意味と、音楽が好きっていうことから由来して付けたのだと思う。」

とても大人には見えないですよね。と、照れ笑いながら音名は言う。

「そうだね。君はまだ子どもに見える。」

音名は、苦笑しながら

「よく言われます。」

と言った。

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