第2話「導き手たちと、創造の工房」

ハルトが魔道具づくりを始めて数日後。牧場の一角に、簡易的な“作業工房”が設けられていた。粗削りな木の棚と作業台、集めた魔石や薬草、精霊たちがもたらした不思議な素材が並ぶその空間は、まるで小さな魔法研究所のようだった。


「うーん……この魔石、安定してないなあ」


試作品の一つが小さく爆ぜ、白い煙を上げた。シエルが羽根で煙を払いながら呆れたように言う。


「ハルト、魔力の流し方がちょっと雑すぎ。ほら、優しく、包み込むみたいに」


「わ、わかった……」


精霊たちは魔力の流れを視覚的に捉えることができる。ハルトは彼女たちのアドバイスを元に、少しずつ自分なりの魔力操作法を身につけていった。


そんな中、村の若者たち数名が、見学と手伝いを申し出てきた。彼らはかつて領都で学んだことがあり、多少の魔術知識を持っていた。


「僕たちにも、何か手伝わせてください」


「魔道具って、本でしか知らなかったんです。実物を触れるなんて……夢みたいです」


ハルトは驚いたが、彼らの熱意を受け入れた。


「いいよ、一緒にやろう。ただし、火薬系には触るなよ?」


「は、はい!」


こうして、小さな牧場の作業場は、老若男女問わず人が集まる場所となった。


その日、ハルトは新たな試作品――“自動収穫機”の原型に挑んでいた。魔力で動く小型の鎌が、指定された区画の草を刈り取る仕組みだ。


「こいつが完成すれば、収穫作業がもっと楽になる……!」


だが、その試作品は途中で魔力切れを起こし、草を一房刈っただけで動かなくなってしまった。


「うーん……魔力効率の問題か。シエル、何かいい方法はないかな?」


「魔力を直接注ぐより、周囲の魔素を吸収する“共鳴石”を使った方がいいかも。自然の力で動かすの」


「なるほど……」


改良を重ね、試作機はようやく小さな畑の一画で問題なく稼働するようになった。牧場に歓声が上がる。


「うわっ、すげぇ! まるで動く小人みたいだ!」


「これが魔道具か……すごい技術だな」


ハルトは、歓喜の輪の中でそっと胸に手を当てる。


(俺は、ようやく“創る”側になれたんだ)


獣医として命を守ることに専念していた過去から、今は命と共に“生きる”ための道具を作る。その変化は、彼の中で確かなものになっていた。


「ありがとう、シエル。……そして、みんな」


小さな工房に灯るランプの明かりが、希望のように暖かく輝いていた。

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