今宵のホラー短編集
今宵こよい(Imayoi Koyoi)
夢
突然ですが皆さん、覚めてほしくない夢って、ありませんか?
今回は、そんな夢の話を一つ。
私が横断歩道を渡っていると,体全体への激しい衝撃を受けました。気がついた頃には私は吹き飛ばされていました。ごろんごろんと転がり、仰向けで止まります。朦朧とする意識の中、妙に冷静な思考が現状の把握に努めます。そして気がついたんです。
車に撥ねられたんだ。
あまりの衝撃のせいか、痛みはまだありませんでした。起きあがろうとしますが、体にうまく力が入りません。仕方なく体を横向きにして、腕を使って上体を起こしました。体の状況を見るため、視線を下げたんです。すると、お腹が、真っ赤。破けた穴から、赤くて長いものが溢れていたんです。
こういう時って、思考は妙に冷静で的外れじゃ無いですか?私もそうだったんです。それで、あ、集めないと、って。焦って体を前のめりにしたものだから、破けたお腹からずるりと中身が出てくるんです。やばいやばい、なんて考えながら、真っ赤なそれを拾い集めてお腹に押し戻すんです。助かるわけないのに。次第に意識が薄れてきます。あ、だめなんだ。そう思った時、目が覚めたんです。びっしょりと汗をかいて、喉がカラカラで。真っ赤に染まった両手と、ぬるりとした感触が嫌に生々しく記憶に残っていました。
ところで皆さん、胡蝶の夢って知っていますか?人間の私が飛んでる蝶の夢を見たのか、それとも蝶の私が人間の夢を見ているのか、ってやつです。まあ、蝶と人間だと、その脳の構造上、主体は人間だろうって結論だと思いますが。
では、私は?
私の場合、どちらも人間でした。というか、どちらも私自身でした。だとしたら、はたしてあれは夢だったんでしょうか?今の私が夢の可能性って、無いでしょうか?
私はその可能性を、否定しきれませんでした。
死ぬ直前の強烈な臨死体験が見せる、夢。そういえば余談ですが、最近の研究では、臨死体験には死ぬ直前の脳内で起こる、爆発的な化学反応が関係している、と判明したそうですね。
皆さんも夢、みていますか?
ええ、これは夢の話ですよ。
どちらが夢なのかって?
どうなんでしょうね。どちらでも良いじゃないですか。
覚めなければ。
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