第18話 名前の魔法

夏の夕暮れ、

ふたりで図書館から帰る途中だった。


空が茜色に染まって、

手を繋ぐだけで心が温かくなる。


* * *


ふと、彼が立ち止まり、私の目をじっと見つめて言った。


「篠原……」

その呼び方に、胸がギュッとなった。


「なに?」

私は恥ずかしくて、目をそらす。


「俺さ、あんまり呼ばないけど、

おまえの名前を呼ぶときだけは、特別なんだ」


彼の声が、夏の風のように優しくて。


* * *


「じゃあ、これからもっとたくさん呼ぶね」


「うん、私も佐倉くんって呼ぶ」


お互いの名前が、ふたりだけの秘密の呪文みたいで。


「篠原」

「佐倉くん」


名前を呼び合うたび、距離がもっと近づいていく気がした。

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