第9話 今日だけは、独り占めさせて
夏休みも真っ盛り。
町の夏祭りに行く約束をしたのは、つい数日前だった。
でも、**「祭りに一緒に行く」**ってだけで、なんでこんなに緊張するんだろう。
着慣れない浴衣。
何度も鏡を見て、髪を直して、それでも落ち着かなくて。
集合場所につくと、佐倉くんが先に来ていた。
……と思ったら、私を見て、言葉を失ってた。
「……ヤバ」
「な、なに?」
「え、ヤバ……かわいすぎて、息止まった」
「……バカ」
でも、ちゃんと伝わった。
“今日は特別”って。
* * *
夜の屋台。
金魚すくいやかき氷、射的にヨーヨー。
手をつなぐのも、もう自然になっていた。
「はい、これ」
「ん?」
彼が渡してきたのは、小さなうさぎのヘアピン。
「射的で当てた。おまえに似合いそうって思った」
「……ありがと」
うまく笑えたか分からないけど、
胸の奥が、じんわりあったかくなっていた。
* * *
花火の音が始まった頃、
人混みを避けて、ちょっと外れの土手にふたりで座った。
空に咲く光の花。
でも、私の視線は、となりにいる彼にしか向かなかった。
「なあ」
「うん」
「今日のおまえ、ほんとに……ずっと見てたいくらい綺麗」
「……なにそれ」
「だから、お願いがある」
「……なに?」
「今日だけはさ、誰にも邪魔されたくない。
おまえのこと、俺だけで独り占めさせてよ」
その言葉と同時に、また花火が上がった。
ぱあっと光に照らされた彼の横顔は、
すごく優しくて、すごく真剣で。
私は、何も言わずにそっと彼の肩に寄りかかった。
「ずっとこうしてたい……って思っても、いい?」
「……私も、同じこと思ってたよ」
夜の空に、大きな花火が咲いた。
でも、それよりも胸の中の想いが、何倍も眩しくて。
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