第8話 彼氏って、どうすればいい?

日曜日。

いつもよりちょっとだけ早く目が覚めた。


「今日、もし予定なかったら、会わない?」


昨日の夜、佐倉くんから来たLINE。

それを見返すだけで、胸がきゅうってなる。


——彼氏。


その言葉に、まだ自分が慣れてないことに気づく。


制服じゃない私服。

髪も、ちょっとだけ巻いてみた。

意味もなく鏡の前で時間が過ぎていく。


駅前のベンチで、彼が先に座っていた。


「おー……え、篠原、なんか今日……」


「え?」


「いや、かわいすぎ」


「なっ……ちょ、やめてよそういうの!」


「いや、マジで。ほんとに」


もう、開始早々これだよ。

好きが止まらないんだけど。


* * *


その日は、ただぶらぶら駅前を歩いて、

文房具屋でペン選んだり、カフェでパンケーキをシェアしたり——


どれも「デート」って呼ぶには地味で、

でも、私にとっては全部特別だった。


帰り道、ふたりきりの歩道。


夕方の光が、佐倉くんの横顔をやさしく照らしていた。


「なあ」


「ん?」


「……彼氏って、どうすればいいんだろな」


「……え?」


「付き合って、こうして一緒にいて、嬉しいけど……

なんか、“正解”ってあるのかなって」


私は少し笑って、首をふった。


「正解なんて、ないよ。たぶん」

「だよなぁ……」

「でも……ひとつだけあるとしたら」


「うん?」


「こうして、“また会いたい”って思えること、かな」


彼は、ちょっとびっくりした顔をして、それから——


「……やばい。惚れ直した」


「もう、ほんとやめて!」


でも、顔が緩むのは止められなかった。


そのあと、信号が赤に変わった瞬間。

ふいに彼が、私の手をそっと握ってきた。


「じゃあ、またすぐ会おうな。俺も、おまえに会いたいから」


その言葉で、次の青信号が、

私の世界を少しだけ明るくした気がした。

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