透明な彼女と群青色の僕
夜舞しずく
第1話
夜空には、あの星が輝いている。いまはもう、君を思って、ただ空を見上げることしかできない。
富士見台(ふじみだい)の丘で独り、雪が降りしきる中で寒さも感じずに夜空を眺める。華純がぼくの前からいなくなって、しばらく経つけれど、あの瞬間を思い出すたびに胸が締め付けられる。
「君が星になる前に、何か言えばよかった」
ぼくは、ぼんやりと星空を見つめて呟いた。
君が死んだのは、きっと必然だった。あのとき、君の身体はまるで光のように消えて、夜空に溶け込んだ。
しかし、それがぼくにはあまりにも苦しかった。
「君は、もう二度と戻ってこない」
そうわかっていても、心の中でその言葉を繰り返すたび、涙が零(こぼ)れそうになる。君は、何も言わずどこか遠くに行ってしまった。最初から、ぼくと君の間にはそんな結末が決まっていたのだろう。
あの日の、君の言葉がいまも耳に残る。
「わたしがここにいるのは、何かを伝えるためかもしれない」
華純の言葉が心に響いている。君は何かを残して星になった。何かが思い出せないまま、時間だけが過ぎている。
ぼくには死んだことを受け入れられなかった。ぼくは、君と過ごした時間をとても大切に考えている。
星空に向かって、もう一度、華純に呼びかけてみる。
「華純、君は本当に星になったんだね」
彼女の声は、天国には届かない。しかし、ぼくは確信していた。君は、どこかで光っている。ぼくが見上げるこの夜空で、きっと君は喜んでくれている。
「君は星だよ、華純」
それは、ぼくが君に告げた最後の言葉。助けられなかったけれど、ぼくの中にはずっと光が残り続ける。星が見えなくなったとしても、ぼくは、君を忘れない。
星がひとつ、またひとつ、静かに瞬いている。ぼくはただ、その光を見つめている。
「もう会えないんだろうか」
想いが胸を締め付けるけれど、ぼくは涙を堪えて空を見上げる。君が星として輝いている限り、見守り続けられるから。
それが、ぼくにできる唯一のことだった。
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