朝
谷田
朝
早くに起きて庭先を箒掃除する朝。少食で食べず嫌いの多い夫が食べれるご飯を用意する朝。全くもう、わたしは家政婦ではないのよ。そう思いながらも、たくさんの贅沢をせずちゃんと家にお金を入れてくれる夫に感謝の思いを込めて、お気に入りの小鉢に昨晩作った卯の花をよそう。小ぶりな鮭を焼く。豆腐のお味噌汁を作る。朝ごはんが用意できた頃に夫は目を擦りながらよちよち起きてきて、ありがとうと呟いて椅子に座るとさらに小さな声でいただきますと手を合わせる。ゆっくりのんびり三十分かけて完食し、ほかの身支度を終わらせると静かに玄関へ向かう。
「じゃあ、行ってくるから」
「なんだか素っ気ないわね、ネクタイが曲がっているわ」
「あぁ…」
ネクタイを直そうとする夫の手を止め、私がそっと直すと彼は照れ臭そうに目を伏せながら
「新婚さんみたいじゃないか」
と笑った。
「あはは、おかしなこと言うんだから」
なんだか私まで照れ臭くなってしまった。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ひらひらと手を振る。陽の光は優しく私たちを包んでいる。いつもよりどこか明るげな夫の背中が、恥ずかしくて嬉しい朝。
朝 谷田 @da_orz
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます