After the snow

焚齧

前編

僕という人間は、狂っている。



僕の名前はあおいというのだが、僕はこの名前が嫌いだ。

葵という名は『立葵タチアオイ』という花を元に付けた名前だそうで、これまた立葵の開花季節である5月下旬から8月下旬という長い間の中で僕が生まれた。


『立葵という花は茎さえあれば咲き誇る事が出来る』という事を知った父が『どんなに高い壁にぶつかろうとも、強い精神を持って生きて欲しい』という願いを込め、命名したそうだ。

それが後の我が子を苦しめる羽目になるとも知らずに。



僕は気付けば15歳になっていた。

YMCAキリスト教青年会で一緒にいたという友人擬き。保育園が同じだという友人擬き。小学校が同じだという友人擬き――は居なかったか。

いや、居たのだろうが当時の僕は小学校の同級生達とはつるんで居なかった。


理由なんて知ったこっちゃ無いが、14歳以前の記憶の殆どを無くした僕に母が色々教えてくれた。



何故両親が結婚したのか。

父の親や親戚がどんな人なのか。

母が患った子宮頸癌と誤解。

僕と双子の弟が生まれた事により兄に与えたストレス。


YMCAキリスト教青年会に入った経緯。

YMCAキリスト教青年会で良く遊んだ人。


保育園に通い出した理由。

保育園で良く遊んだ人。


小学校入学の経緯。

しんゆうについて。

保育園で良く遊んだ人が、交通事故にあったと母が教えた時の僕の反応。

再従姉妹はとこの両親の離婚について。

虐め。

弟が起こした数々の学校問題。

僕の精神病。

児童相談所児相問題。


中学入学の経緯etc.



様々な事を教わった。

まるで、他人の生い立ちを聞かされている様なそんな不思議な感覚に陥った僕だったが、一つだけ明白に言える事があったので母に言った。


『つまり……葵が生まれて来なければ、全部上手くいっていた?』



母は言った。

自分達が結婚したのは金と地位を守る為、親が勝手に取り付けたと。

父の親は育児をして来なかったと。

親戚一同はお高く留まるだけの堅物だと。

自分が子宮頸癌になった理由は双子にあると冗談で言った所、僕の顔が顔面蒼白になり、涙腺を狂わせてしまったと。

自分が子宮頸癌になり一命を取り留めたのは僕達双子のおかげだ、と後に話したが、僕は聞く耳を持たず自分を責め続けたと。

僕達双子が危篤状態だと祖母から聞いた兄が極度の不安障害を患ってしまったと。


YMCAに入れたのは、NICUから出て間も無い双子を見れなくなり、少しの間ても良いと1日何時間か預けたと。

そこで良く遊んだ人が10人ほど居るが、同じ小学校に入ったのは一人だと。


保育園も最初はお家の命令に従い、指定した場所に行くことを強制されていたが、双子を同じ場所に入れたかった両親は拒否し、一般的な保育園に入園したと。

その幼稚園でも僕と弟には差があり、僕は男子と外ではしゃいでいたにも関わらず弟はずっと本を読んでいたと。

その友達達は――仮に保育園の名前をAとしよう。その保育園には同じ名前の小学校がすぐ近くにあり――余談だが、その小学校の前の通りにもその名前が付けられている。

つまりは、その保育園に行った人は殆どの確率で小学校が同じになる。実際、別だったのは僕達双子だけだった様だしな。


小学校に入る時、僕は泣き暴れたと。折角仲良くなった人達と離れるのが嫌だと言っていたと。

さて、僕のトラウマの原因となる第1の人物〝しんゆう〟について母は多くを語らなかった。ただ、その小学校にはクラス替えが無いため、虐められた10歳の頃からずっと虐めは続いたし、学校全体をも巻き込んだ大規模な虐めだったそうだ。――今でも良く分からない夢は見るのだが、起きると鼓動が早くなり、気管が閉まって苦しいだけで、どんな夢なのかは思い出せないことが多々ある。

そして、保育園に居た当時一番仲が良かった人らしいので、旧友とでも言おうか。旧友が他界した。死因は交通事故だったらしい。台風の日に外に出て、車に引かれたそうだ。当時の僕はその話をしてすぐに、無表情になり、1週間ほど何も喋らなかったらしい。

再従姉妹が僕の祖母と再従姉妹の祖母に虐められ離婚したと。

弟絡みで警察署に何度も足を運び、その度に僕と弟が殴りあって1度死にかけたと。

僕はPTSD心的外傷後ストレス障害ASD自閉症スペクトラム障害DID解離性同一性障害を患っている可能性が高い精神科医から言ってきたと。

現状全てに耐えられなくなった僕は弟を連れ児相に逃げ込み、そこで元から深刻化していた人間不信を悪化させたと。


児相の件もあり、2つの中学に行く権利が渡されたが、兄に会いたいと言い元々行くはずだった中学へと入学したと。



だが、それを聞いても、中学での僕の生活を僕は多少なり知っているからこそ、僕に過度な期待をした祖父母を知っているからこそ。

僕が居なければ、弟が居なければこうはなっていなかったのでは無いかと考えてしまう。

罪は消えない。

15で死ぬと決めた僕がもう少しで17歳になろうとしている。そんな事を許して良いのかも分からない。

記憶もないまま、愛されたいと叫ぶ僕はどうすれば良いのか。

そして、何故僕は生きてこれたのか。

それは、次回お話しましょう。

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