第21話 マリアーノ=ドンジョロ①

自分でいうのも何だが、割りと昔から小器用で小狡くて要領のいいタチだった気がする。だから剣を取っても魔法を学んでも、結構それなりにモノになった。とはいえ、所謂器用貧乏の感は否みたいけど否めない。なにしろどれを取っても一番にはなれなかったから。



俺はマリアーノ=レノ=ファナジール。代々ベルシャナ王国に仕えるてはいるが、さほど由緒正しくもない家柄の男だ。



そんな俺が今から3年前、25歳で近衛兵長に抜擢されたのはまずまず上出来の部類だっただろう。部下も30人ほど出来た。



まあもっとも、ベルシャナ王国って言ったってなんの名所も特産物もない辺境の鄙びた小国だから、大した自慢にもなりゃしないか。



「隊長! マリアーノ隊長! 大変です!」



ある日の朝、部下の一人であるボーニャが血相を変えて執務室に飛び込んできた。



「なんだ朝から騒がしい」



俺は鬱陶しげに答える。ボーニャという男はチビの割に目端の効く奴だからそれなりに重宝してはいるが、いかんせんそそっかしいところが目に余る。ところがこのボーニャ、とんでもないことを言い出し始めた。



「メベルグ帝国が攻めてきましたぁ!!」



「なぬっ!?」

俺は思わず椅子から立ち上がった。

「詳しく言え!」



「メベルグの兵およそ千! 現在シャーナ砦を陥落させこちらへ進行中とのこと!」



えええ!? なんだって急に。俺がこんなこと言うのも何だが、ベルシャナなんてちっぽけな国を侵略したところで、メベルグにとって何の得があるっていうんだ。そもそもこの国は元々、ほとんどメベルグの属国みたいなもんじゃないか。



「マリアーノ隊長!」

そこへノッポのグロックが飛び込んできた。



「今度は何!?」

俺ももうビックリするやら困惑するやらで、気が気でない。



「あ、広間で軍議だそうです」

ああ、なるほど。



「すぐに行く!」

俺はヤケクソ気味に叫んだ。



軍議ではもう、騎士団長から各隊の隊長から老齢の王までもが全員困惑するのみで軍議なんてもんでもなんでもなく、皆で雁首揃えて「なんじゃこりゃ、なんじゃこりゃ」言いながら、最終的に停戦の使者を送りつつ籠城の用意と決まった。まあそりゃあ他に打つ手なんてないだろうしなあ。



翌々日、シャナ城の外はベメルグ帝国兵士たちの洪水になっていた。哀れ停戦の使者は虚しく役目を果たすことなく城へと戻り、さらにその翌朝早くからは帝国軍による一斉攻撃が開始された。



そもそもこのシャナ城は『城』なんて言うのが恥ずかしくなるくらいの小城で、どちらかというと館に近い。その上兵力は敵が1000。こちらは250。防衛もなにもあったもんじゃない。



「あっ!」という間に城門は打ち破られ、帝国軍兵士たちがなだれ込んできた。



俺たちは近衛隊だから、城の最奥の玉座の間で王を警護していたが、敵がここまでやってくるのも時間の問題だった。



正直言って、俺が生きてる間にこんな事態が巻き起こるなんて考えもしなかったが、そもそも俺の命ももはやこれまでか......。そんな考えが頭をよぎったとき、おもむろに玉座で呆然と空を眺めていた御年82歳のベルシャナ王が口を開いた。



「シ......シェ......」

「シ? シェ?」

王の口からは言語とも空気ともとれぬ音が漏れ出すのみで、俺は思わず聞き返してしまった。当然平時ならとんでもない不敬だ。



「......シエラを落ち延びさせよ」



あ! 忘れてた。ベルシャナ王の子、ブレンダ王太子の唯一の忘れ形見、シエラ姫。正直苦手なんだよ。これがまたワガママでさ。......なんて下らない愚痴言ってる場合じゃない。なにしろブレンダ王太子は王太子妃共々若くして流行り病で亡くなってしまったから、王亡き後に唯一残された王家の正当な血筋となってしまう。おっと、王まだ死んでないな。こりゃまた不敬。



「ゲイジ、姫をこちらへお連れしろ」

俺は太っちょゲイジに指示を出した。



数分後。



「ちょっと、どういうことなの!? こんな朝早くからどうなってるのよ! 安心して眠れやしないじゃない! あんた達、早く外の連中追い払いなさいよ!」



シエラ姫、ネグリジェ姿で現れ出でるなりいきなりこれだよ。俺の戦意は早くも喪失寸前だ。

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