「カーナビの音声」

アンコウ

第1話

「水回りは常に掃除しろ!」

「玄関の盛り塩は蹴るな!」

「洗面台の鏡と風呂場の鏡が合わせ鏡になるから風呂のドアは閉めなさい!」


A(20)の祖母は風水や霊障に敏感な人であり、常に気を張っていた。

自らだけでなく、A含む家族にも半ば強制的に巻き込んでいた。

そんな祖母をAは幼少期から密かに嫌っていた。

Aは祖母とは真逆で非科学的なことは一切信じないタイプであった。

そのため大学進学で一人暮らしを始めたタイミングで祖母とは疎遠になりつつあった。


そんなA(20)はある日、大学の後輩である彼女B(19)と夜景ドライブをしていた。

「ねえ!この辺心霊スポットあるんだよ!私の好きな心霊系YouTuberが検証してた!行きたい行きたい!」

助手席に座っていたBが心霊スポットに行きたいとはしゃぎ始めた

「くだらねえ、そんなん信じてるの?アホらしい」とAは冷ややかにBに言い放ったが、Bは一切気にせず行く気満々な様子だった

「ここ右折するとね、橋があるの!そこで怪奇現象が起こるらしい!車で素通りするだけだから!お願い!」

Aは根負けし、通るだけなら、と渋々橋へ向かって車を走らせた


Bの道案内に従って2、3分走らせると、橋を示す標識が目に入った。

標識を抜けて橋に差し掛かろうとしたその時

B「ん?あれ?スピードがでねぇ」

時速50kmで走行してた車が、勝手に減速し10km未満になった。

「ねえ、ふざけないで!早く橋通過して!怖いよ!wwww」

Bは多少怖がりつつもAが車を減速させたことが面白かったらしくケタケタと楽しそうにしていた

だがAの様子は真逆だった

額に冷や汗をかきながら

「B!ふざけんな!まじで動かねんだよ!アクセルベタ踏みしてんだぞ!?なんでスピード出ないんだよ!」って焦りと恐怖で苛立ちながらBに怒鳴ると

「、、、ねぇ、、なに、あれ、、きゃあああああ!」

Bが窓の外を見て悲鳴を上げた

Aが同じ方向に視線を向けると、橋の下から無数の黒い手がニョキニョキと出てきて2人に手招きをしていた

Aが悲鳴をあげるとカーナビが反応した

「行き先はどちらでしょうか?目的地を、、、」と機械的な音声が聞こえてきた後

「Aの馬鹿野郎!ふざけたことするな!南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経!早く橋から出ろ!真っ直ぐ進みなさい!」とカーナビから祖母の声が聞こえてきた。

すると無数の黒い手が消え、車も加速し出して2人は無事橋を抜けることができた


街頭がポツポツと出始めた道でAは車を一旦停車した

助手席のBはガタガタ震えながら顔を手で覆っている

「ねぇ、なんだったの、あの黒い手、、そして、カーナビ、、しゃべってた、、、」

Bは混乱している様子だった

そんなBの背中をさすりながらAが話し出した

「橋から出てきた黒い手、あれ、なんだったんだろうな。でもカーナビ、あれは俺のばあちゃんの声。怖かったけど、あのばあちゃんの声で助かったよな、なんだったんだ、、、」

恐怖と謎に包まれた状態で2人は帰宅した


翌日、Aは昨日の件のことで、疎遠だった祖母に電話をかけた

祖母はワンコールですぐに出て開口するや否や

「A!昨日なんであんな場所に行った!私が助けなかったら、、」

とAを怒鳴り叱り出した

Aはそんな祖母に怖気付くように話し出した

「ばあちゃん、なんで知ってるんだよ、、、カーナビの声、本当にばあちゃんだったの、、?」

祖母は先程とは変わって落ち着いたトーンで話し出した

「A、ばあちゃん実は霊感があるんだよ。実家がお寺だったんだ。もう今は継ぐ人がいなくてなくなっちゃってるけどね。だから色々と力を持っているんだよ。A、昨日、いわくつきの場所に行っただろ?あそこは自殺の名所だ。行っちゃダメなところだったんだよ。ばあちゃん寝ようとしたら脳裏にAと女の子が映り出してね。只事じゃないってわかったから、布団の中で叫んだんだ。その声がカーナビから伝わったんだろう。もうそういうところに行っちゃいけないよ、あの世に連れて行かれるからね」

Aは黙って聞いていた

ずっと祖母を苦手としていたが、昨晩の一件で祖母に対する印象がごろっと変わった

そして今まで避けていたことに申し訳なさも感じた

「ごめん、来週土日、帰るわ。母さんにも伝えといて」

そうAは言って電話を切った。

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