第10話:蠍の回廊

──その船は、死んでいたはずだった。


辺境宙域で発見された貨物船エクリューズは、百年前の戦時に消息を絶ったとされていた。

調査隊が乗り込んだ船内には、生存者がいた。


──彼女は自らを「ナカミ・ソエリ」と名乗った。

百年前の記録にも確かに存在する乗組員の一人だが、年齢は28歳のまま。

生存理由は不明。だが、検出された血液には“非天然由来の再構成因子”が含まれていた。


> 「殺されたの。でも、私はまだ……終われない」




船内は奇妙な構造へと変貌していた。

廊下は螺旋状に折り重なり、同じ区画が何度も現れる。

時間の感覚も狂っており、調査隊の1人が記録した。


> 「進むほど、過去が濃くなる……」




ソエリは語った。


百年前、エクリューズはある極秘任務を帯びていた。

星間企業体UNESICの裏切りにより、仲間たちは一人ずつ毒殺され、彼女自身も“処理”されたという。

だが、彼女の中には“記録されざる因子”があった。


それが、彼女を蘇らせた。


──死への拒絶、報復への執念。

それらが毒となって、彼女の中で進化していた。


しかも、彼女はこう告げた。


> 「私が死ねないのは、あなたたちの未来に“毒”があるからよ」




実際、船内には彼女が再構成した無数の“記録体”があった。

それは彼女が見た、仲間の死の瞬間、裏切りの過程、そして、企業体が未来に仕掛けていた“倫理汚染兵器”の計画図だった。


> 「毒はいつも、最も純粋なところから始まるの」




調査隊が帰還した後、エクリューズは再び姿を消した。

だが、彼女の残した記録体のひとつには、こうあった。


> 「裏切りは終わらない。でも、私はいつでも刺せる場所にいる。」




**


> 識別タグ:Scorpius-10




**


──その毒が何のために進化したのか、それを知るのは、刺された者だけだ。



---

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る