終末ラジオ
蛸屋 ロウ
#1
突然ですけど、ロボットが夢を見るのはおかしいと思いますか?
コードとかAIとか、あまり難しいことは分かりませんが、それらによって芽生えた『心』が、無機質な意識に感情を抱かせたら、どう感じますか?
今日は一人なんで、そんなことを話をしたいと思います。
あんまり小難しくつもりはないので、どうか暇つぶし程度に付き合ってください。
最初から話しましょう。まず、僕が目を覚ましたのはとある一室でした。やたら不気味で、ひんやりとした空間です。あたりを見回せば、ポッド?でしょうか。人一人くらい寝転がれるようなカプセルみたいなものが十数台あって、僕もその一つに入っているんだと気づきました。
随分長いこと眠っていたのか、体が錆びついたかのように軋んで、関節一つ曲げるのに途方もない労力を費やしたのを覚えています。なんとかしてポッドから出ても、まるで歩き方を忘れたかのように足がおぼつかなく、誰も見てないのをいいことに這って部屋を探索しました。
僕が入っていたポッド以外、全てがもぬけの殻で、ここには誰一人として人がいないんだということが分かりました。目に見えて分かる情報はそれだけでした。
ここはどこなのか、なんでここにいるのか、自分が誰なのかさえも曖昧で、それでもひしひしと、『置いて行かれた』という寂しさだけは、不思議と感じていました。
孤独が部屋の無機質さとあいまって体を凍えさせ、ただ不安で不安で隅で震えていたんです。けどこの部屋が僕が目を覚ましたのに気づいたのか、機械的な声音で語り掛けてきたんです。声の主は壁にかかった巨大なディスプレイから話しかけてきた、ノイズ混じりの音声ガイドでした。
途切れ途切れながらも丁寧なあいさつと簡易的なバイタルチェックを終え、何か質問はと尋ねてきました。それはもうたくさん、疑問なんて山ほどありましたから、あれこれ思うところを打ち明けましたよ。知らないというのは怖いと感じる
淡々と、事実は話されました。
要約すると、僕はむかし生きていた時代に疲れ、輝かしい未来へと旅立とうと、見栄を張って数十年の時をコールドスリープで飛ばすという『人生プラン』を選んだらしかったんです。問題は、輝かしい未来なんてどこにも無かったということです。
当時、世界各国で問題視されていた地球温暖化や少子化、終わらない紛争に飢餓、加速する経済低迷に疫病の蔓延、中でも砂漠化が特にひどかったらしく、百年後には地球が『水の惑星』から『砂の惑星』に変わり果ててしまうのは時間の問題だったのこと。
そこで人類は地球を再生するのではなく、新たな土地を求めて宇宙へと進出しました。しかし全員が新天地へと赴く方舟に乗れるわけでもなく、民意に基づいて社会的地位の低い人や差別の対象者などはこの滅びゆく星に取り残されらしく、僕もその一人であると。
・・・笑えますよね。文字通り、置いてけぼりですよ。今となってはもう受け入れられましたが、当時の僕はもう気が気でなくて、ガイドがいう現実を否定したくて部屋を飛び出したんです。
人間、追い詰められると馬鹿力が湧くもんで、先のへこたれぶりなんて嘘みたいに走れたんですよ。蛍光灯が明滅する廊下をひたすらに進み、エレベーターが使えないから階段を見つけて駆けあがりました。恐らくここは地下深くで、何回も折り返す上り階段にやられてしまい、のそのそとしか上れませんでしたけど。
息を荒げながらも、冷えた空気が乾いていくのを感じました。階段も薄汚くなっていき、所々にゴミや砂が散っているのが目に入ってきました。もうその時点で、僕自身察していたのかもしれないですが、希望はまだあるって信じて、ようやく階段を上りきることができたんです。地下とは打って変わって荒れ放題の廊下を進み、扉を開け、やっとの思いで外の景色をこの目で見れました。
険しい道中の先に僕を迎えてくれたのは、絶望でした。
そこは人々に忘れられたビル群でした。砂とひび割れたコンクリートの上に、空虚な旧時代の高塔が乱立し、そのほとんどが崩落しているか、形を保っているのがやっとの劣化具合でした。照明も、ましてや活気などあるはずもないこの土地には絶えず生ぬるい風が砂を運んで、動物や植物の生息を断固として許していません。この荒廃した世界の観測者は、僕と厚い雲の彼方から見下ろす太陽だけでした。
これが僕が目を覚まして初めて見た外の世界です。
人類が地球を捨ててから8492日目の夕刻でした。
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終末ラジオ 蛸屋 ロウ @TAKOYAROU1732
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