君という人間について僕は何も分からないでいる。
白川津 中々
■
「好きなんだけど」
突然告白された俺は言葉を失った。
喋った事もない、隣のクラスのなんとかさんに呼び出され、何かと思えば急な好意。はっきりと言って持て余すというか、俺にはどうする事もできなかった。
「ごめん、君の事よく知らないんだけど」
純粋な疑問を口にすると、彼女は「そうだよね」と言ってつらつらと自身のプロフィールを述べた。生年月日、性別、経歴、趣味趣向、そして好みのタイプまで赤裸々に口にし、改めて「私ってどうかな」と真っ直ぐ見据えてくるのだが、違う。そういう事じゃない。言葉にできない部分がまるで見えないのだ。
「概要は分かったけど、君という人間が分からない」
「大丈夫大丈夫。その内分かるから」
なんとも曖昧だったが。力強い言葉だった。
その発言に当てられた俺は交際を承諾。同じ大学に入り、同じ会社に入社して結婚。今は二児の父としてマイホームとマイカーのローンを払っている。妻となった彼女に「なんで俺なの?」と聞いても答えてはくれない。しかしまぁ、幸せな人生を歩んでいるからいいだろう。過去よりも、これから生まれる三人目の子供について頭を使うべきだ。しかし、彼女の名前は果たしてなんといったか。未だにそこが覚えられないでいる。まぁ、些末な事だろう……
君という人間について僕は何も分からないでいる。 白川津 中々 @taka1212384
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