第六話 紅き血脈と祈り
バンピーノは静かに、石畳の上に膝をついていた。
「……この血の、宿命からは逃れられんか」
彼の髪は深紅、目は闇を映したような漆黒。だが光が差すとき、その瞳は深いルビーのように輝く。
──バンピーノ。バビロニアの夜を統べた、吸血鬼の王族の末裔。
かつて世界がまだ神々と交わっていた時代、"紅き王バン=ヴァルディア"が統治した国があった。人間も魔族も共に暮らし、血を交わすことで絆を結んだ、稀有な国だった。
だが、その調和は裏切りによって破られる。盟約を反故にした神聖同盟軍により、バンピーノの一族は一夜にして狩られ、滅びに瀕した。
彼は、唯一の生き残りとして封印され、数百年の時を超えて今、目覚めた──それがこの異世界であり、そして「なんちゃら」パーティとの出会いだった。
「ケンタ、タツ、フェアリム……。あやつらの軽さは時に腹立たしいが……心地も良い」
彼はかつての王族らしからぬ、ぼそぼそとした口調でつぶやく。そして、彼の眼前には一基の石棺。
「母上……私はまだ、誓いを果たせぬままだ」
その棺には、バンピーノの母であり、王国最後の王妃とされる女性──セリーナ=バンピーノの名が刻まれていた。
石棺の周囲には古代文字が浮かび上がる。
『バビロニアよ、紅き誇りを忘るなかれ。王の子よ、次代を開け』
バンピーノの指先が震える。
彼にはかつて誓った言葉があった──
「我が血をもって、再び同盟を結ばん。闇と光の狭間に、秩序を築かん」
しかし、それを果たすどころか、彼は今や逃亡者の一人。
──そのとき。
後ろから、柔らかな足音。
「やっぱり、ここにいた」
現れたのはミサトだった。
彼女もまたバンピーノの真実を知っていた。ただ一人、彼の秘密を黙って受け入れた仲間だった。
「……見つかったか」
「ふふ、吸血鬼って、こそこそしてても結構目立つんだよ?」
バンピーノは小さくため息をついた。
「私は、弱い。何百年もの血脈を背負いながら、目先の仲間ひとりを守る力すらない」
「それでも、あんたはあたしたちの仲間だよ」
ミサトは、手に持っていた布包みを差し出す。
「これ、みんなで集めた。血の代わりに、赤ワイン煮込みとベリーのスープ。……人間用だけどね」
「……ふ、気が利くではないか」
バンピーノはその器を受け取り、月明かりの下で一口すする。
温かく、酸味と甘みが舌を刺す──不思議と懐かしい味。
「我が誓いはまだ果たされぬ。しかし、我が仲間は、今ここにいる」
彼はゆっくりと立ち上がり、母の石棺に向かって一礼した。
「母上──お待ちください。必ず、この時代に平和と誇りを取り戻してみせます」
その誓いに、風が応えるように石棺の上を流れた。
──夜が明ける。
吸血鬼の末裔は、再び仲間の元へと歩み始めた。
彼の歩むその先に、再び激動が待っているとも知らずに。
場面は変わり、仲間たちの元に戻るバンピーノ。
ちょうどそこでは、次なる探索の準備が進んでいた。
「おっそーい!バンピーノ!血の気が多いくせに集合遅れとか!」
叫んだのは、風の妖精フェアリム。
「……お前が言うか。昨日、寝落ちしたのは誰だ」
「え?あたしは風だから流れるのよ〜」
「さーて、いよいよ次のダンジョンだね」
ケンタが地図を広げる。
「……王都から封鎖されてた、魔導文明の遺跡跡地か」
「なんかさ、バンピーノ。君ってあの場所の封印と関係あるんじゃない?」
と、セレスティアが悪気なく突っ込んだ。
バンピーノは小さくため息をついた。
「その可能性は……否定できぬ」
「だったら逆にチャンスじゃん!君がいたから開けられる場所もあるってことでしょ!」
とタツが肩をバンピーノにどん、と叩いた。
「……壊して入る気か」
「まぁ、いつも通りさ。慎重に、全力でバカ騒ぎして、ついでに世界も救えばいいじゃん」
ケンタの軽口に、バンピーノは小さく笑みを浮かべた。
「そうだな。我が誓いと、お前たちの無謀。案外、相性は悪くないのかもしれん」
そして一行は、未知なる遺跡へと向かう。
バンピーノの過去が、再び世界の鍵を握るとは知らぬまま──
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