【異星人外交官】マッサージャー

ロックホッパー

 

【異星人外交官】マッサージャー

                         -修.


 「所長、観測衛星が新たな宇宙船を探知しました。距離20万Km、現在の速度ですと1時間後に到着します。大きさは長さ100m、幅と高さが30mです。」


 銀河連邦のエージェントとして最初の異星人が地球に来訪して以来、毎年のように次々と新たな異星人が表敬訪問するようになった。このため、地球政府は宇宙港に異星人専門の外交機関を設置した。

 最初の異星人は地球の言語を研究し、公用語で通信してきた。しかし、それに続いて来訪する異星人達はお構いなしに自分たちの言語とコミュニケーション手段で話かけてきた。その手段は音声以外にも、電磁波、重力波、接触型など多様を極めた。

 このため、この外交機関は、異星人を出迎えるよりも、むしろコミュニケーション手段と言語の解析が主なミッションとなっていた。


 「大きさとしては標準的だな。難解なコミュニケーション手段でなければ良いが・・・」

 今まで想像を超えるコミュニケーション手段に対応してきた所長はため息混じりに呟いた。


 1時間後、宇宙船は発着床に静かに着陸した。

 「さて、何が出てくることやら・・・」

 今までに来訪した異星人は、まるで怪物あるいは怪獣のように人間には受け入れがたい外見であった。しかし、異星人達は地球より何千年も、いや何万年も進化している生物であることを思うと、外交官たちは異常な外見でも受け入れざるを得ないと半ば諦めていた。


 そして数分が経った時、外交官たちが今までに経験したことのない事態が発生した。

 「え、なんてことだ。所長、船が消えました。」

 部下が突然大声で叫んだ。

 「飛び立ったのか?」

 「いえ、レーダーも、観測衛星も、宇宙港の周りのカメラもそのような兆候は探知していません。」

 「うーん、異星人の技術は想像を絶するからな。異次元にでも行ったか・・・。しかし、一旦着陸したのに、またどっかに行くというのも考え難いな。」

 「確かに判りませんね。あっ、所長、重量センサーの値が0になっていません。発着床が未だに船を支えているようです。」

 発着床は頑丈に作られているとはいえ、宇宙船の重さにより若干たわみが生じる。このたわみをセンサーで計測することで宇宙船の重さが判るようになっていた。

 「見えないだけということか・・・」


 外交官たちが完ぺきともいえる光学迷彩に感心していると、突然変化が訪れた。

 「所長、多数の蝶が舞っています。3D映像のようです。」

 「今度は何が始まったんだ・・・」

 スクリーンにはおびただしい数の蝶が舞っていた。そして、まもなく蝶は消え、ごつごつとした岩場に着陸用の小型宇宙船とおぼしきものと、そこから国旗を持って飛び跳ねるように歩く宇宙服の姿が現れた。

 「こ、これはアポロ11号の着離船じゃないのか・・・」

 「所長、アポロ11号ってなんですか?」

 「君は知らないだろうな。君の産まれるはるか昔に人類が初めて月に到達したときの計画と宇宙船の名前だよ。しかし、こんな映像が見られるとはな・・・」

 所長が感慨深げにスクリーンを眺めていると、また映像が切り替わった。次は毛むくじゃらの人間たちが石斧を持って狩りをしている姿が映し出された・

 「今度はネアンデルタール人のようだな。これは実際の記録映像なのか?」

 「異星人は、はるか昔から地球を観察してきたって言いたいんですかね。」

 「そうだな、表敬訪問の手土産ということだろうか。」


 そして、ほどなくしてまた映像が切り替わった。そこには5mほどに拡大された人間と、その横に直径5mほどの真黒な餅のような塊があった。そしてその餅は徐々に変形して人間と同じような形状になった。

 「所長、黒いのは異星人なんですかね。」

 「そうだろうな。液状、いや、ゲル状というべきか。必要に応じて形態を変えられるということだろうな。」

 そしてまた映像が変わり、今度は黒い餅のような異星人が2体現れた。そして、だんだん接近していき、お互いの一部が接した状態となった。

 「これは異星人のコミュニケーション手段が接触型であることを伝えようとしているんじゃないでしょうか。」

 「そうだな。しかし、接触面で何が交換されているのか判らないとなんとも言えないな。電気信号なのか、振動なのか、化学物質なのか・・・」

 「確かにそうですね。」


 部下がそう話した瞬間、異星人の1体が消滅し、平面となった接触面が見えるようになった。そこには、半球状の膨らみが出てきたり消えたりし、また膨らみが左右に動いたりしていた。

 「どうやら、あのでっぱりの出し消えとか、移動が伝達手段のようだな。うーん、どこかでみたような・・・。そうだ、なんだかマッサージ機の揉み玉みたいだ。」

 「なるほど、しかし、これは我々のエージェントロボットでは再現できそうにないですね。」

 異星人の未知のコミュニケーション手段は、あるときは強力なレーザービームであったり、爆音であったり、異常な重力波であったりと、生身の人間が受けると一撃で死に至るものがあった。このため、異星人の出迎えは、人間と同じ姿で、色々な種類のセンサーを持ったエージェントロボットに行わせていた。しかし、さすがにマッサージ機の動作を再現することは難しかった。

 「所長、開発部に新たなコミュニケーション装置を作ってもらいましょうか。」

 「そうだな。そう言えば、リラクゼーションルームにマッサージチェアがあっただろう。あれを利用すれば、開発時間を少し短くできるかもしれないな。」

 「分かりました。至急作ってもらいます。」


 開発部は、マッサージチェアに多量の圧力センサーを取り付け、揉み玉をコンピューター制御で動かせるようにし、異常な速度でコミュニケーション装置に作り替えてくれた。そして、無事、異星人との会話を始めることができた。といっても、相手も、異星人側がリスク回避のために用意したエージェントロボットと推察された。そして数ヶ月後、表敬訪問が終了し、異星人は去っていった。


 異星人との対話を進めるうちに判明したことだが、会話の複雑さは同時に動かす突起の数で変わってくるらしい。そして、外交官が用意した2個の揉み玉は異星人の幼生期のごく初歩的な会話レベルだが、人類の文明レベルには丁度合っていたそうだった。


おしまい

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