【第4話 ゴブ、初めての危機】
ギルドに慣れ始めた頃、ゴブとシンは「周辺警備任務」に志願することにした。
依頼内容は、盗賊の目撃情報があった森林地帯の見回り。
簡単なパトロールだと聞いていた。
「やっと冒険っぽくなってきたな」
シンが軽口を叩く一方、ゴブは森を見つめながら神妙な面持ちをしていた。
「ここ……昔、爺と通ったのだ。あのときは何もなかったけど……」
*
同行したのは、前回ゴブを小馬鹿にした若手冒険者の二人。
今回も明らかに小馬鹿にした態度だった。
「なんだよ、また来たのかよ草摘みコンビ」
「お前ら足手まといになるなよ?」
その態度にゴブは言い返しかけたが、シンの手が肩に触れる。
「ま、働きは現場で見てもらおうぜ」
森の中をしばらく進んだ頃、不意に前方から煙が立ち上る。
気づいたときにはもう遅く、一行はすでに周囲を囲まれていた。
道は倒木で塞がれ、後退もできない。
「伏兵……っ、罠だったのだ!」
盗賊たちは顔を布で覆い、手には鉈や弓を構えている。
その目には明確な殺意。
リーダー格の盗賊が叫ぶ。
「俺たちもかつてはギルドにいた……だがな、理不尽に追われた者の恨みは深いんだよ!」
「ひとまず……隠れるのだ!」
だが、逃げようとした瞬間、ゴブの足が震えて動けなくなる。
「ご、ゴブ……こわ……こわいのだ……」
シンが振り向き、真正面から叫んだ。
「大丈夫だ、ゴブ! 俺が囮になる。その間に……思い出せ、爺の話を!」
その言葉に、ゴブの記憶が揺れる。
『逃げ道はいつも、風の通り道にある。地面の柔らかいところ、乾いてない苔……そういうところに、命が残る』
ゴブの目が冴える。
「風……ここだ! こっちなのだ!」
ゴブは地面を這いながら草をかき分け、小さな獣道を見つける。
シンも盗賊を陽動しながら合流。
二人はそのまま全速力で森を抜け、小さな谷間へと転がり落ちた。
そこは、かつて爺が使ったという“抜け道”。
その壁面には、苔に覆われかけた古い印が彫られていた――「G」と、二重の矢印。
「……爺の印、残ってたのだ」
ゴブはそっとその刻みに触れ、胸に手を当てた。
*
翌日、ギルドに戻ったふたりは、応急処置をしながら報告書を提出した。
「盗賊は……元冒険者だと名乗っていたのだ。あの目、何かを失った者の目だった……」
逃げ出した若手冒険者たちは、ギルドで肩身の狭い思いをしていた。
「おい、お前ら本当に戻ってきたのか?」
「しかも報告書まで……マジかよ」
その声には、嫉妬と驚き、そしてほんの少しの敬意が混ざっていた。
受付の女性は優しく微笑んで、包帯だらけのゴブに言った。
「あなたの“知恵”は、誰よりも頼りになりますね」
ゴブは照れくさそうに頭を掻いた。
「……ゴブ、ちょっとだけ、爺に近づけた気がするのだ」
シンは笑いながら、そっと肩を叩いた。
「もう、十分立派な冒険者だよ。でも……爺ちゃんにはまだ負けてるかもな」
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