【第4話 ゴブ、初めての危機】

ギルドに慣れ始めた頃、ゴブとシンは「周辺警備任務」に志願することにした。


依頼内容は、盗賊の目撃情報があった森林地帯の見回り。

簡単なパトロールだと聞いていた。


「やっと冒険っぽくなってきたな」


シンが軽口を叩く一方、ゴブは森を見つめながら神妙な面持ちをしていた。


「ここ……昔、爺と通ったのだ。あのときは何もなかったけど……」



同行したのは、前回ゴブを小馬鹿にした若手冒険者の二人。

今回も明らかに小馬鹿にした態度だった。


「なんだよ、また来たのかよ草摘みコンビ」


「お前ら足手まといになるなよ?」


その態度にゴブは言い返しかけたが、シンの手が肩に触れる。


「ま、働きは現場で見てもらおうぜ」


森の中をしばらく進んだ頃、不意に前方から煙が立ち上る。


気づいたときにはもう遅く、一行はすでに周囲を囲まれていた。

道は倒木で塞がれ、後退もできない。


「伏兵……っ、罠だったのだ!」


盗賊たちは顔を布で覆い、手には鉈や弓を構えている。

その目には明確な殺意。


リーダー格の盗賊が叫ぶ。


「俺たちもかつてはギルドにいた……だがな、理不尽に追われた者の恨みは深いんだよ!」


「ひとまず……隠れるのだ!」


だが、逃げようとした瞬間、ゴブの足が震えて動けなくなる。


「ご、ゴブ……こわ……こわいのだ……」


シンが振り向き、真正面から叫んだ。


「大丈夫だ、ゴブ! 俺が囮になる。その間に……思い出せ、爺の話を!」


その言葉に、ゴブの記憶が揺れる。


『逃げ道はいつも、風の通り道にある。地面の柔らかいところ、乾いてない苔……そういうところに、命が残る』


ゴブの目が冴える。


「風……ここだ! こっちなのだ!」


ゴブは地面を這いながら草をかき分け、小さな獣道を見つける。

シンも盗賊を陽動しながら合流。


二人はそのまま全速力で森を抜け、小さな谷間へと転がり落ちた。


そこは、かつて爺が使ったという“抜け道”。

その壁面には、苔に覆われかけた古い印が彫られていた――「G」と、二重の矢印。


「……爺の印、残ってたのだ」


ゴブはそっとその刻みに触れ、胸に手を当てた。



翌日、ギルドに戻ったふたりは、応急処置をしながら報告書を提出した。


「盗賊は……元冒険者だと名乗っていたのだ。あの目、何かを失った者の目だった……」


逃げ出した若手冒険者たちは、ギルドで肩身の狭い思いをしていた。


「おい、お前ら本当に戻ってきたのか?」


「しかも報告書まで……マジかよ」


その声には、嫉妬と驚き、そしてほんの少しの敬意が混ざっていた。


受付の女性は優しく微笑んで、包帯だらけのゴブに言った。


「あなたの“知恵”は、誰よりも頼りになりますね」


ゴブは照れくさそうに頭を掻いた。


「……ゴブ、ちょっとだけ、爺に近づけた気がするのだ」


シンは笑いながら、そっと肩を叩いた。


「もう、十分立派な冒険者だよ。でも……爺ちゃんにはまだ負けてるかもな」

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