第3話 未知の巨大生物
突如として現れた巨大生物。
そのあまりの大きさに、さすがのアーツとレンクスも動きが止まってしまう。
「な、なんなんだよ、あれ……」
さすがの筋肉自慢のレンクスでも、自分よりもはるかに大きなものを見ては足がすくんでしまう。
「さあな、さすがに俺でも分からない。ひとまず画像だけでも残しておこう。ニックなら何か分かるかもしれないからな」
アーツは持ってきていた記録装置で巨大生物の姿を撮影する。
「あの大きさじゃ、持ってきた閃光銃でも倒せるか分からねえな。ひとまず、外にはでかい化け物がいるってことだよな。この中で俺たちはしばらく過ごすってことになるのか」
冷や汗を流しながら、アーツは自分たちの乗ってきた航宙船の方へと視線を向ける。
もしあんなのに襲われたら、自分たちの乗ってきた航宙船はあっという間に潰されてしまいそうだからだ。
ひとまずアーツたちは、巨大生物がその場から立ち去るまでじっと息を潜めて待ち続けた。
ようやく大きな足音が遠ざかっていく。
ほっとしたのも束の間、アーツは足元に妙な感触を受けていた。
「なんだ?」
ちらりと目を向けると、そこには自分の足にかみつく大きな虫がいた。
「うわあっ!」
思わず大きな声を出してしまう。
「くそっ、なんだこいつは!」
慌てたレンクスは、虫の脳天を閃光銃で撃ち抜いていた。
さすがに頭を破壊されて生きていられる生物は少ない。
アーツの足にかみついていた虫は、その場にぱたりと力尽きて倒れた。
「はあ、びっくりしたぜ。足がかまれてるなんて思わなかった」
アーツは航宙服についた汚れを手で払っている。
「航宙服を着ていて正解だったな。素足だったら食いちぎられていたかもしれねえ」
「まったくだ。とりあえず、こいつを持って帰って調べてみるか」
「正気か?」
アーツの提案に、レンクスは表情を歪めて嫌がっている。
「そういえば、こういうの苦手なんだっけか」
「普段見ることがないものだから、苦手になって当然だろ。こんなのを持って帰ろうだなんて、正気を疑うぜ」
レンクスはもう動かなくなった虫を差しながら、アーツに向かって怒鳴っている。
ところが、アーツは面と向かってレンクスに言い返している。
「だがな、ここがどこだか分からない以上、少しでも情報があった方がいいんだ。きっとこいつを調べれば、何かが分かると思うんだよ」
「ぐぬぬぬぬ……」
こればかりはアーツが正論であるために、レンクスは何も言い返せなかった。
だが、この大きな虫をどうやって航宙船まで運ぶかというのが問題になった。
なにせ、地面に横たわっている虫は、アーツより少し小さいくらいなのだ。
持ち上げてみると、結構な重量がある。この重さでは、持ち運ぶのはかなり労力を要しそうだった。
「俺が言い出しっぺだから手伝うが、お前の筋肉が頼りなんだぞ、レンクス」
「しょうがねえな。分かったよ。とりあえずここがどこだかの情報は欲しいからな」
「そういうこった。んじゃ、航宙船まで運ぶぞ」
「おう」
アーツとレンクスは、協力して倒した虫を航宙船まで運ぶことにした。
航宙船からあまり離れていないのは幸いだったものの、人間並みの大きさがある虫というのは想像以上に重かった。
そのせいで、航宙船に到着する頃には、二人揃って汗だくになってしまっていた。
「結構蒸し暑いな、ここは」
「まったくだな。早く中に入って汗を流したいぜ」
航宙船の下までやってきた二人は、早速ハッチを開ける。
ごうんごうんという音を立てながら、航宙船の入口となるハッチが開いていく。
地面にまでハッチが到達すると、二人は拾ってきた虫を抱えて中へと入っていった。
航宙船へと戻ったアーツとレンクスは、ひとまず虫をレンクスに任せて、アーツが報告へと医務室にやって来る。
「やっぱりここにいたか。クロノはどうだ、調子は」
「ええ、傷はすっかり良くなったわ。ごめんね、心配かけちゃって」
「いいってことよ。むしろあの衝撃でケガがそれだけで済んだだけでも幸いだろう」
「ふふっ、ありがとう」
頭の包帯は痛々しいものの、クロノは無事そうでアーツはほっと安心したようだ。
「あっ、そうだ。ニック、ちょっといいか?」
「なんでしょうか、アーツ」
安心したのも束の間、用事を思い出してニックに声をかける。
驚くニックの手を引っ張って、アーツはレンクスが待っている場所へと足早に急いだ。
「おーい、レンクス、待たせたな」
「おう、待ちくたびれたぞ。こんな気持ち悪いやつ、さっさと処分しちまおうぜ」
虫の上に座りながら、レンクスは機嫌が悪そうにアーツに返事をしていた。
「な、なんなんですかこれは」
連れてこられたニックが驚いて見ている。
「外をうろついている時に襲い掛かってきたんだ。脳天を一発で撃ち抜いたから、多分復活しないだろう」
アーツの答えに、ニックはほっとした表情を浮かべていた。
「で、こいつがなんだか分かるか?」
「すぐには結論は出せませんね。ちょっと調べてみる必要があると思います」
アーツの質問にニックはそう答えていた。博識なニックでもすぐに答えが出ないとは、アーツたちは首を捻るばかりである。
周辺の風景といい、あの巨大生物といい、目の前の謎の虫といい、どうやらアーツたちはまったくの未知の惑星に不時着してしまったようである。
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