第8話 時は過ぎ
あれから10年、幸せな時間が過ぎた。
アリサは27歳くらいになった。だけど、魔女だからか、それか元から若く見えるからなのか、アリサは綺麗なままだ。
全然歳をとったという感じがしない。
美魔女とかっていう言葉があるけど、アリサはなんとなく、50になっても見た目は変わらないんじゃないかという気がした。
ナナは15歳くらいになっていた。孤児だから性格な年齢はわからないらしい。
俺がアリサに初めて会ったときくらいの年齢だ。
こうしてみると、二人は仲のいい姉妹のような感じに見えた。
アリサは相変わらず魔女の帽子をかぶっていて、白色のボーイッシュな短髪をしている。
ナナはさらに髪が伸びて、天然の金髪がすごく美しい。
俺はというと、多少経年劣化が進んだかな。
だけど図書館は、今日もかわらずに元気です。
この10年で、俺はいろいろと本を読んだ。
どれも魔導書だ。
最初は難しくて、とっつきにくかったけど、なんとか読んでみたら面白くなってきた。
これまでにだいたい500冊くらいは読んだかもしれない。
アリサに教えてもらった順番で読んだから、けっこうすんなり読めた。
だけど、魔導書の内容はどれも複雑で、読むのにけっこう時間がかかる。
いくら活字中毒の俺といえど、この十年で読めたのは500冊だけだった。
それでも、かなり魔法の知識がついたと思う。
俺にはどうやらマナもなければ、脳もないから、魔法は使えないらしいんだけどな。
けど、もし今すぐ人間の身体を手に入れられたなら、そこそこ魔法で戦えるだろうなってくらいの自信はある。
にしても、10万3千冊ってマジですさまじい量だよな。
10年かけてこれだけ読んでも、まだ10万2500冊も残ってるんだから……。
ちなみにだが、所有者であるアリサも、ほとんどが未読らしい。
どころか、なにがどこにあって、なにがなにについて書かれたものなのかも、ほとんど把握していないらしい。
一説によると、ここに存在する魔導書をすべて学べば、ありとあらゆる魔法を使用可能になるのだとか。
だが、お目当ての魔法を学ぼうと思っても、そもそもその魔法について書かれた本がどれなのか、またその本がどこにあるのか、探し当てることすら不可能だ。
まったく全部電子化して検索機能でもつけてくれ。
アリサには探している魔導書があるらしく、いつも図書館をぐちゃぐちゃに荒らしては、帰っていった。
そのたびに俺が元の場所に本を片付ける。
アリサがどんな魔法を探しているのか、俺は知らない。
一度きいてみたことがあるが、はぐらかされた。
まあ、俺が手伝ったところで、この中からお目当ての魔法についての記述を探し当てることは不可能だろうけどな。
俺自身、俺の中にどんな本があるのか、まったくもって未知数だ。
自分の身体の中だというのに、全然把握できていないというのは不思議な感じだ。
だけど、人間だって、自分の身体の中のことなんてよくわからないというのが現実だ。
教科書でだいたいのその構造を知ってはいても、それは一般的な人体の構造についてでしかない。
自分の健康状態を正確に把握している人間なんかいないだろう。
まして、レントゲンでもとらないかぎりは、その正確な地図は描けない。
まあ、いずれ俺がこの図書館の全部の本を読破してやるさ。
どうやら俺に寿命はなさそうだしな。
いくら時間がかかってでも、すべての魔導書を読んでやる。
この10年で俺はたくさん本を読んだが、この世界の一般常識については全然知らないままだ。
アリサは街へ降りることは一度たりともなかった。
それに、この世界のことについても全然話してはくれなかった。
興味がないのか、わざと避けているのか。
だから、アリサが新しく本を仕入れてくれるようなこともなかった。
もしかしたら、この世界には俺たち浮島の上の住人しか住んでいなくて、地上は既に滅んでいるのかもしれない……。
そんなふうにすら思えてきた。
まあ、そんなのはでも、些細なことだ。
俺にとっては、この浮島での生活がすべてで、それでよかった。
毎日アリサとナナと、幸せな時間を過ごした。
そして魔導書とはいえど、本も読み放題じゃないか。
それ以上何が必要なのだろうか。
俺はこの時間が永遠に続くと思っていたし、永遠に続けばいいと思っていた。
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