秋葉原の路上で、ボクと握手。
そらみん
プロローグ それぞれの場所で。
画面の中で、二人が対立していた。
砂埃の舞う荒野。鈍く光る刀を構えた、侍のような紋袴の男性と、無表情のまま腕組みをしている、赤く派手なドレスを身に着けた女性。二人は向き合ったまま離れており、一歩踏み込めば届く、しかし踏み込めば反撃を食らう一刀一足の間合いにいた。
突如、男性が女性に向かって駆ける。勢いよく走り出し、構えた刀で逆袈裟に斬り裂く。
その瞬間、いきなり女性の顔がアップに映った。そこに浮かぶは、微笑。
男性に向かって手を伸ばすと女性の後ろから魔法陣が瞬き、無数の光の弾丸が男性に突き刺さる。それが性に当たった場所にはダメージ量が表示され、男性の頭の上に浮かんだHPゲージが減ってゆく。
その攻撃にひるむ男性に対し、今度は女性の方が勢いよく駆け出す。腰のあたりに手を伸ばすと先ほどの男性と同じように腕を振る。その手にはいつの間にか光り輝く剣が握られており、それを両手で構えなおすと、上段からそのまま振りかぶった。
男性の頭の上に表示されていたHPゲージは、勢いよくゼロになる。
その男性が倒れ込むのと同時に爆発が起こり、踵を返した女性の凛々しい姿が映された。
「進化した科学はもはや魔法だ。もうすでに、ゲームは現実を超えた」
「ユーザー人数、百万突破! 話題のVR、AR複合システムを用いた対戦型ゲーム」
男女のシーンを背景にして重なるように勢いよく浮かぶ文字とナレーションの声。
「ウィザード」
「新たな体験が、今、始まる――」
幕間
「……ウィザード。こんなもの、ただのゲームだ」
秋葉原駅を降りた僕の目の前にあるそれを見ながら、吐き捨てるように呟いた。駅から降りてすぐに感じた、大勢の人々が放つ秋葉原の街の喧騒は昔と変わっておらず、しかし数年前とは違った違和感を放っていた。街中で魔法陣を展開している小学生男子や、ホログラムで作られた掲示板を見ながら電話をかけるスーツ姿の中年男性、そしてアニメから出て来たかのようなネコミミ少女達が群れを成して歩いている姿など、数年前には信じられなかった混沌を見せている。
「『ゲームは現実を超えた』 まったくその通りだ」
目の前で起こっている現実を見ながら、僕は歩みを進めた。
幕間
「ウィザード。こんなんただのゲームよ」
ハネダって変な名前の空港に降りてすぐ、あたしは広告板の前に立った。ホログラムで作られたそれは、ちょうどウィザードの宣伝をしているところだった。
「全く。ニューヨークでも同じもの見たってのに」
十四時間のフライトを終えたばかりのあたしにこんなものを見せつけるなんて、神様も性格悪いわね、って考えながら、ぼさぼさになった髪を手櫛でとく。ずっと座りっぱなしで退屈だったのに、飛行機は揺れるわ変なおじさんが下っ手クソな英語で話しかけてくるわでもう最悪。
「はあ、気を取り直して。アキバって街はどこかしら?」
適当に整えた髪をポニーテールにまとめて、タクシーの乗車口に向かう。
「大丈夫。ボクは天国のママに見守られているんだから」
『Dear.氷柱』と書かれた手紙をポケットから取り出し、見つめ、そのままポケットの中に戻した。
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