待ち合わせの時刻を三十分も過ぎた。しかし連絡の一つもない。あいつはよく遅れてくるような奴ではあるが、いつもは薄っぺらい謝罪と長々と言い訳をしてくるのに。もう遅れるのが当たり前になり、最低限の礼儀も忘れたのだろうか。まあたいした用事でもないし、連絡を入れて俺も帰るとするか。

「……。」

顔を上げると視界に犬が映る。リードがされていない白い小型犬、そこまで小汚くないから何処からか逃げてきたのだろうか。そんな犬が俺の方に駆け寄ってくる。おいおいマジかよ。

「ワンッ…ウー…ワンワンワンッ!ウー…ウー…ウー ウー、ワンッ!」

うわ、なんか吠えてきた。犬の吠える声って耳に響いて不快だなぁ。

「おい、あっちに行けよ。」

俺はポケット入れていた菓子をそいつの鼻の前にかざしてから投げた。しかし犬はそれを無視して菓子がただ地面に落ちる。

「ウー…ワンッ!ウー…ウー…ウー…ワンッ…ウー…!ウー…ワンッ…ウー…ウー…!ワンッ…ウー…ワンッ…ウー…ウー…!」

そいつは俺をみてずっと吠えている。

「ワンッ…ウー…!ワンワンワンワンッ!ウー…ワンッ…ウー…ワンッ!ワンッ…ウー…ワンッ!ワンッ…ウー…ワンッ…ウー…ウー…!ワンッ…ウー…!ウー…ワンッ!」

周りの視線が俺と犬に集まる。俺は頭を掻いて保健所の連絡先を調べる。

「ウー…ワンッ!ウー…ウー…ウー…ワンッ…ウー…!ウー…ワンッ…ウー…ウー…!ワンッ…ウー…ワンッ…ウー…ウー…!」

「あー……もしもし、今……ああすみませんうるさいですよね。野良犬に付き纏われていて。」

「ワンッ…ウー…ワンワンワンッ!ウー…ウー…ウー ウー、ワンッ!」

「あー、怪我はありません。でもずっと足元で吠えられていて。はい、場所は……。」

「ウー…ワンッ…ウー…ワンワンッ!ワンッ…ウー…ウー…ワンッ!ワンワンッ!ワンッ…ウー…!ワンッ…ウー…ワンッ…ウー…ウー…!」


 数分後、保健所の人間が来てうるさい犬を連れて行った。そいつはずっと吠えていて、後半は声が枯れた状態で必死に吠えていた。あいにく俺は犬の言葉なんて分からないし、何を伝えたかったのかは分からない。可哀想な気もするが飼い主さえ見つかれば処分される事も無いだろう。

 結局あいつは来ないし俺は適当な連絡を入れて家に帰る事にした。

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ゆめみるくじら。 鯨井涼介 @kujirairyosuke

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