第34話 パワー充填100%のスコップの歌

 朝ごはんの後、ケンちゃんと裏山の洞窟で穴を掘っていた。


「すっげー掘れるんだけど……」

 ふつうの人間には使いこなせないとおじちゃんは言ってたけど、ケンちゃんは使いこなしていた。


「ぴっぴっぴっぴ」

「ぴっぴっぴっぴ」

 ハルちゃんとコンちゃんが強化しているシャベルを。


 ザクザク、ケンちゃんは掘っていた。

 地底人が住む地下都市までのトンネルでも掘るかのように……。


「ぴっぴっ」

 ハルちゃんとコンちゃんも誇らしげに使われていた。


「ふたりで掘ると早いねえ」

 その意味が分からないように、ボクもスコップでお手伝いっぽく掘っていた。全然掘れていないけれど、昨日よりはましだった。


「ぴっ」

 ボクのシャベルにはオリちゃんが強化してくれていたからだ。


「ふたりだからじゃなくて、シャベル、ヘンじゃね?」


「ぴっ」「ぴっ」「ぴっ」

 伝説の武器強化アイテム、オリハルコン、おじちゃん風に言うとヒヒイロカネが使われているからね。オリちゃんもハルちゃんもコンちゃんも張り切っている。


「ヘンじゃないよ。ふつうだよ」

「ふつうか? これが?」

 ケンちゃんはざっくざっくと掘っていた。昨日、以上のザックザクだった。穴がみるみる深くなっていく。


 ホントにすごい。シャベルもだけど、やっぱりケンちゃんの体力、ふつうじゃないよね。昨日もバスが終わった真っ暗な道をかなりの速さで歩いていた。


 田舎のバス道は都会のバス道からは考えられないいくらい遠い。

 それを歩くって、人間離れにも程がある。


「ぴっぴっぴっぴ」「ぴっぴっぴっぴ」

 伝説の強化アイテムなはずのハルちゃんとコンちゃんも大変そうだった。


「ぴっぴっぴっぴ」

 オリちゃんは応援してるだけだったけど、ふたりが大変そうだから応援にも力が入っている。


「シャベル、あるんだから掘れよ」

 そのことに気付いたのか、ケンちゃんがボクに言う。

 オリちゃんが応援しかしていないのは、ボクがほとんど掘っていないということだった。


「そだね。ぼちぼち掘ろうか」

「とっとと掘れ」


「まったく。ケンちゃんは短気だよね」

 そしてちょっと伸びをした。ずっと座ってたから、体がなまった感じ。なまるもなにも、体力はない。


「あ……」

 ザクザク掘っていたケンちゃんの手が止まる。


「どしたの?」

「俺のギター、どうして俺の部屋にあったんだ?」


「見つけちゃったの?」

「見つけた。さっき」


「ギターを見て、ケンちゃんがびっくりするとこ見たかったのに」

 シャベルのごたごたでそれどころではなかった。


「だから、なんであるんだよ」

「おばちゃんから借りてきたんだよ」


「かあさんから?」

「うん」


「明日、帰るんだぞ」

 ボクとケンちゃんの、田舎で過ごすとっても楽しい春休みは明日でおしまい。

 明後日からは新年度がはじまって、ボクは新小学三年生、ケンちゃんは新中学二年生になる。


「淋しいな……」

 いろいろなことがあったけれど、ケンちゃんと一緒はやっぱり楽しかった。


「ボクね、ケンちゃんが遊んでくれて、とっても楽しかったよ」

と言うと、

「俺は別に……、おばさんに頼まれただけだし」

 安定のケンちゃんのお返事。


「それでもね、とっても楽しかったよ。ありがとう。ケンちゃん」

 ボクがそう言うと、ケンちゃんは照れたようにまた穴を掘りだした。ザックザックとさっきよりもすごい勢いで掘っていた。

 ハルちゃんとコンちゃんが辛そうだから、もう少し優しく掘ってあげて。


「ケンちゃん」

「なんだよ」


「ギター、あるんだからお歌うたって」

 ケンちゃんが固まる。


「ケンちゃん、お歌。シャベルの歌とか」

「今、ここにギターがないからダメ」


「取ってくるよ」

 都会のお家か持ってきたんだから、おじいちゃんのお家から取ってくるぐらい、どってことなかった。


「ここに持ってきたら汚れるだろ」

「え~」

 言われてみれば、そうである。泥まみれになって穴を掘っているのだから。


「そんなことよりも掘れ。せっかくおじさんが直してくれたんだから」

「しょうがないな」


「しょうがないってなんだよ」

 ケンちゃんが怖い顔になった。


「じゃあ、趣味と実益を兼ねて、うたいます」

「は?」

 ケンちゃんの眉が寄る。


「パワー充填100%のスコップの歌」

 まず題名の発表。


「それ、うたうのか?」

 ボクはうなずいた。


「100%の方だから、そんなにうるさくないよ」

「何が違うんだ?」


「音量?」

 怒ったような顔をしているケンちゃんのことは置いておいて、シャベルをマイクのように両手で持つ。


 ボクの足りないパワーをうたで補うのだから、シャベルに向かってうたわねばならないのだ。


「スコップコップ、コップコップ。スコップコップ、コップップ」 

 ケンちゃんはぴくりともせずに聴いていた。


「ボークのスコップ、素敵なスコップ。スコップコップ、コップップ」 

 オリちゃんとハルちゃんとコンちゃんは嬉しそうにニコニコして聴いてくれていた。


「素手だと全然掘れないけれど、スコップコップ、コップップ。スコップ使えば倍は掘れる。いやいやもっとかな三倍だ」 


「スコップコップ、コップコップ。スコップコップ、コップップ。ザクザク掘るぞ、掘るぞ掘るぞ掘~るぞ」

「……どこまで続くんだ?」

 しびれを切らしたケンちゃんが聞いてきた。


「じゃあ、次のフレーズで終わりにするね」

「そか」


「スコップコップ、コップコップ。スコップコップ、コップップ」 

 次は『よっこいしょういち』だったから、こんな感じでちょうどよかったかもしれない。


「うむ。パワー充填100%」

 シャベルに十分なエネルギーが蓄えられたのが感じられた。


「いくよ、オリちゃん」

 ボクのシャベルを強化してくれているオリハルコンのオリちゃんにだけ聞こえるように言う。


「ぴっ」

 オリちゃんが返事をした。


「いっけ~、どこまでも掘るのだ~」


 ザクっ キン!!

 

 ヘンな手ごたえだった。

 地面にシャベルを突き刺したのに、ボコっと底が抜けるような感触だった。


「あれれ?」

「ぴぴぴ?」

 応援ばかりしていたオリちゃんの力が余っていたのか、ボクが掘った穴は、底が抜けて異世界のような景色が見えていた。


「え……」

 ケンちゃんもその景色を見ていた。


「本物の……、地底人の世界?」

 ボクが開けたのは地底世界の天井だったのかもしれない。下に高度な科学で発展したであろう都市が見えた。


 これ、ウチの一族関係ない、ホントに異世界っぽいヤツだよ。

 嘘から出たまことって言うか、『ボクと違う地底人』に会いにいけちゃう感じだよ……。


 ボクは、オリちゃんが強化してくれた、純真無垢なボクのように真っ白で、愛くるしいボクの手にちょうどいい大きさのシャベルでその穴をふさいだ。


「ぴっ」

 オリちゃんもボクの意図を汲んでくれたのか、しっかり閉じてくれる。


「今のって……」

 ケンちゃんの目が輝いている。


「ケンちゃん」

「なんだ?」


「ボクとケンちゃんの春休みは明日までなんだ」

「…………そうだな」


「明日は都会にあるお家に帰って、明後日には新年度なんだよ」

「…………ああ」


「ボクは新小学三年生。ケンちゃんは新中学二年生。地底人に会ってる暇ある?」

「ないな」


「だよね」

「うん」


「じゃあ、穴埋めて、おじいちゃんの家に戻ろう」

「わかった」

 ケンちゃんは納得してくれた。


 ボクとケンちゃんは、オリハルコンで強化したシャベルで穴を埋めた。

 これ以上、異世界とかになったらお腹いっぱいだよ。


「ケンちゃん」

「なんだ?」


「せっかくケンちゃんのギターを持ってきたんだから、お歌うたってよ」

 ケンちゃんは少しの間、考えていた。


「1曲だけだぞ」

「わ~い」

 ボクが喜んでいると、ケンちゃんがちょっとだけ笑った。


 ボクとケンちゃんの春休みは、ケンちゃんの素敵なお歌で幕を下ろした。

 とっても楽しい春休みだった。



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ボクとケンちゃん 玄栖佳純 @casumi_cross

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