♯2 それは紛れもなく――

鈍い痛みが、こめかみを刺している。


男はゆっくりと目を開けた。天井。コンクリート打ちっぱなし。冷たい空気。

全身が重く、動かそうとした手首には何かが――


「っ……!?」


隣に、男がもうひとり。うつ伏せのまま気を失っている。

手錠。しかも頑丈そうな鎖が男と自分を繋げていた。


「おい……」と声をかけるが、反応はない。


頭を振ると、鋭く脳裏に蘇る。


――会社からの帰宅途中だった。駅の階段を降りて、背後に誰かが――

そこで記憶は途切れていた。


突如、部屋の隅に設置されたスピーカーが唸りを上げ、人工音声が響く。


《GAME START。ルールは簡単。お前たちは互いに手錠で拘束されている。外す方法はただひとつ──さて楽しませてくれ》


同時に床の上に置かれたノコギリがスポットライトに照らされる。


「冗談だろ……」

男の声は乾いていた。


そして、隣の男がもぞもぞと起き上がった。

半開きの目。ぼさぼさの金髪。ピッチリとした赤いスーツは、鍛え抜かれた筋肉を際立たせている。


「……ん?なんだここ。イタタ、昨日の酒が残ってやがるな……」

まるでホテルで目覚めたかのような、のんびりとした声。


「え……君、状況わかってる?」

男は困惑を隠せず聞く。


「んー、隣のヤツのいびきがうるさくて寝られないってクレーム入れたまでは覚えてるんだが……。寝てる間に部屋変えてくれたみたいだなあ。しかし、それにしちゃ殺風景すぎないか?」


「……ここ、デスゲームの会場だぞ!?」


「へぇ。通りで殺風景のはずだ」

そう言って、男はポケットから葉巻を取り出し、口にくわえる。


「……火、持ってるかい?」


「いや、今それどころじゃ……って、いや何者!?」


「手錠か。オレ、SMには興味ないんでね」

自分の左手にはめられた手錠を見て、彼はため息をつく。。


「何を……?」と問う間もなく、

ガシャリ――


彼の左腕がすっぽりとぬける。そして、鈍色に輝く砲身が現れる。


「伝説の……サイコガン……!?」


ズバンッ!!


一瞬で手錠が焼き切られた。残った手錠の鎖の熱で、彼は葉巻に火をつける。


「さて、目も覚めたし──」


その瞬間、モニター越しにパニックが起きていた。


《うわああっ!?ヤツだ!こいつは……!》


「こ……コ●ラ!!」

男と主催者が同時に叫んだ。


コ●ラはカメラに向かってウインクする。


「さて、お仕置きの時間だ。そっちへすぐ行くぜ。お祈りして待ってな」


ドーン、と爆発音。壁が崩れ、大きな穴が開き、彼はその中へ踏み込んでいった。


残された男は、ぽかんと口を開けていた。


「……なんだったんだ、あいつ……」


ドアが軋みを立てて開き、警察が突入してきた。


「無事ですか!?」


「はい……多分……」


「とにかくご安心を。最近、市民を誘拐してデスゲームを行う猟奇犯罪者が──」


「いや、それより“コ●ラ”!そっちでもうデスゲームどうでもいいわ!」


波の音が──しない場所で、やけに静かに響いていた。


(完)


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フラグラッシャー 浪漫贋作 @suzumochi

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