第3話 この村、魔物の巣につき
「……助けて……誰か……!」
その悲鳴が聞こえたのは、夜も更けた頃だった。
レイは、仄暗い村の外れの小屋で静かに剣の手入れをしていた。
盗賊を撃退してから数日。村人たちは怯え、そして遠巻きにレイを避けるようになった。
(まあ、無理もないか。盗賊三人を血まみれにした“よそ者”なんて、歓迎されるわけがない)
だが、あのとき助けた老婆は毎晩パンを届けてくれていた。
「怖い目をした子だけどね。きっと優しい子だと思うよ」
その言葉が、どこか胸に残っている。
そんなある晩だった。
か細い叫び声が、夜の森から響いてきたのは。
「助けて……!」
レイは即座に立ち上がった。
魔剣・グリムを腰に差し、音のした方角へ駆け出す。
《この気配……魔物だ。小型種だが、数が多い》
「わかってる。気を抜くなよ」
森の中へ踏み込むと、そこには信じられない光景が広がっていた。
三匹の獣型魔物――ケルベロスの下位種、三つ首の黒犬に囲まれていたのは、
銀色の髪と獣耳を持つ、少女だった。
(……獣人!?)
少女は手にナイフを握り、必死に立っていた。
だが足元はふらついており、服も泥まみれ。すでに満身創痍だった。
「くっ……来るな……!」
魔物が吠え、跳躍する。
少女の体が吹き飛ばされる寸前――
「遅いな」
ズバンッ!!
空を裂くような斬撃が走り、魔物の一匹が真っ二つになった。
「は……?」
少女の瞳が、大きく見開かれる。
「お前、大丈夫か」
「え、えぇ……でも……!」
「下がってろ。すぐ終わる」
残りの二匹が吠えながら突っ込んでくる。
レイは静かに剣を抜いた。
《“連撃・黒閃”》
一瞬の動き。
気づけば、二匹の魔物は首を斬られ、地に崩れ落ちていた。
風が吹く。
静寂が訪れる。
レイは剣を収め、少女に手を差し出した。
「立てるか?」
「……あんた、一体……」
「通りすがりの“役立たず”だよ」
少し冗談めかしたその言葉に、少女は一瞬きょとんとし、そして――ふっと微笑んだ。
「へんなの。命の恩人が“役立たず”って言う?」
「お前みたいに言ってくれるやつ、久しぶりだ」
レイは少女を背負い、村へと戻っていった。
⸻
翌朝。
少女は村の診療所で目を覚ました。
ベッドの隣にはレイが座っていた。
「もう平気なのか?」
「うん。ありがと……名前、教えて」
「レイ。お前は?」
「私はルナ。獣人族の戦闘部族出身。……って言っても、今は部族からも追放された、流れ者だけど」
「……奇遇だな。俺も、追放された口だ」
二人は少しだけ笑い合った。
レイは不思議だった。
初めて会ったはずなのに、この少女にはどこか懐かしいものを感じた。
(こいつは――俺と同じだ。捨てられて、それでも生きようとしてる)
だからこそ、口をついて出た言葉は自然なものだった。
「お前、行くあてがないなら……一緒に来るか?」
「え?」
「俺はこれから、強くなる。復讐もする。だけど……それだけじゃなくて、もっと“遠く”まで行ってみたいと思った。お前も、そういうの……嫌いじゃないだろ?」
ルナはしばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと、頷いた。
「うん。……よろしくね、レイ」
こうして、“孤独だった二人”は、初めて仲間を得た。
だが、その影で──村の奥深くに巣くう“もうひとつの脅威”が、静かに牙を研いでいた。
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