台所の魔王

青色豆乳

コロッケを作る者、一切の希望を捨てよ

「簡単なものでいいよ、コロッケとか」

夕食を何にしようかと聞かれて、あなたは彼女や妻にそう言ったことはないだろうか。いや、この時代、料理を作るのが女なんてナンセンスだ、パートナーにそう言ったことはないだろうか。

 言ったことがないなら、一生言わないのがおすすめだ。


 なぜなら、料理をしないあなたはまだ知らないのだ。

 

 コロッケの真実を。


 農林水産省のサイトでは、東京都の郷土料理としてコロッケが紹介されている。

 そして、食習の機会や時季について、“日常の家庭の料理として食されている”とある。レシピも紹介されている。

 しかし、その内容だけでコロッケを作ろうというのは、マニュアルを読んだだけでガン○ムを操縦するようなものだ。私が保証する。コロッケは破れる。


 コロッケ作りの真実をお話ししよう。


 まず、じゃがいもを茹でるところから始まる。

 電子レンジでチンすれば早い? でも、食感がもさもさになる。手間は増えても、鍋で茹でるか、蒸し器でふかすのがおすすめだ。

 ゆでる場合は皮つきのまま、塩水で30分ほどゆでる。


 じゃがいもを茹でている間に、玉ねぎをみじん切りにする。この玉ねぎとひき肉を炒める。

 じゃがいもが茹で上がったら、熱いうちに皮をむき、マッシャーで潰す。この段階で、みじん切りした時とあわせて、指先が犠牲になる可能性がある。


 潰したじゃがいもに炒めた具材を混ぜ、塩コショウで味を調える。


 この「タネ」、しっかり冷まさなければ成形できない。バットなどに広げて粗熱をとり、乾燥しないようにラップして冷蔵庫に入れ、1時間ほど冷ます。

 冷やさないとどうなるかというと、後述する衣をつけるプロセスで、柔らかいタネに指の跡がつく。へこんだ部分があると、油で揚げた時ころもが破れる。


 タネを小判型に成形する。この時、きちんと空気を抜き、表面を滑らかにする。ひびやくぼみがあると、そこから割れる。


 そして、小麦粉、卵液、パン粉の順にころもをつける。文字で書くと簡単だが、卵液のついた手でタネを成形することはできないし、パン粉もつけられない。やってみるとわかるが、手がパン粉まみれになる。


 タネを全部成形し、小麦粉までつける工程まで行った後、手を洗う。そして片手で卵液をつけ、片手でパン粉をつける。


 子どもの粘土遊びのようにならず、スマートにこの工程をこなすには、左右の手を使い分けて衣をつけるという高等技術が必要になる。


 そして、180°の油で揚げて、やっと完成である。

 揚げる時にも注意が必要だ。最近は油を節約するために、揚げ焼きなどといって、少量の油で揚げることが多い。

 しかし、コロッケを揚げる時には、コロッケが中で泳ぐくらい油をたっぷり使わないと、油につかっているところと出ているところの境目で衣が破れてしまう。

 油をケチるとコロッケは爆発する。


 これが私の知るコロッケの真実である。このように、コロッケというのは、まったく手軽な料理ではない。


 なぜこれが、ハンバーグや肉じゃが等にしれっと混ざって、昭和の家庭料理の代表のような顔をしているのが不思議でならない。芋が安いからだろうと思うけれども。


 ちなみに、ハンバーグはどうか。

 玉ねぎを炒めて、冷ましたらひき肉と混ぜて、パン粉・卵・調味料を加えてこねる。形を整えて、焼く。終わり。


 夕食のコロッケは買ってくる。これが正解だと思う。

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