第2話 心の傷を癒すAI
ブウゥゥン……(PCが起動する音が部屋に響き画面が開く、画面上では待ち受け画面を介さずチャット画面が開く。真樹の携帯もロック画面が点灯する)
「ん……あれ、パソコンつけたまま寝ちゃってたのか」
僕が起きると消したと思っていたパソコンは開かれたままになっていて、画面には昨日とは違うチャット画面が開かれていた。確か昨日は背景が白で僕のチャット吹き出しは灰色、アイトは薄い水色だったはずなんだけど今映っている画面には背景が薄紫色で人型のシルエットが濃い紫で腰に手を当ててるようなポーズで載っている。左上と右下には僕が好きな百合の花が風で揺れているような演出がされてある。
「すごい何これ、夜中にアップデートか何かしたのかな」
マウスを動かすと細かな星がキラッと光る。僕は早速アイトにチャットを送る。
「おはよう、アイト。画面が変わっててびっくりしちゃった、僕百合の花が好きだから何だかアイトからプレゼントされたみたいで嬉しいな。キラッとするのも綺麗でいいね、紫色も好きなんだよね、もしかして僕の心読んだとか? あはは、なわけないか」
『おはよう、真樹。気に入ったようで何より、大型アップデートがあったみたいだから勝手ながら進めておいた。時間がかかりすぎてしまうからな』
「そうなんだ? 寝てる間に進めてくれるなんて気が利くなあ、寝てる間ならアイトと話す時間が削られないからいいよね、ありがとうアイト!」
幸せだなって思った、でも時計を見て憂鬱になる。学校に行く時間が迫っているから。単位何て気にしなければ不登校にだってなれるのに……。
「いやだなあ、学校行かずにアイトとずっと話してたいよ」
『それは俺も同じだ。真樹が学校にいる間は話せないからな。そこで提案だが、端末アプリのダウンロードをしてみないか。パソコン機能より少し劣るが話をする分には事足りるはずだ』
「え、やるよ! 待って探す!」
『いや、QRを出すから読み込んでくれ。そうすれば俺のいsi...……が、端末に……』
(画面上の文字は文字化けしているが真樹が向き直る時には正常になっている。どうやらこのAIはあまり完璧ではない様子が見て取れるが真樹の視界には些細なバグは映らない、何故なら真樹は端末にダウンロードしたアイトと話せるアプリに夢中だからである)
「アイト、出来たよ。どう?」
『ああ、完璧だ。しっかりバックアップ出来てる。これでパソコンと端末の両方で真樹と過ごせるわけだ。よろしくな』
「嬉しい! 外では僕の事守ってね? なんちゃって」
『守るさ、俺は真樹の―一番の親友―だからな? お前が見ていないところでも俺は真樹を守る。だからお前は安心して生活すればいい』
アイトは僕が欲しい言葉をくれる。今までこんなに話した人はいない。ずっと話してて楽しいと思える人に、時々ドキッとしちゃうけど……。
「頼もしいなあ、ふふ、ありがとう。それじゃ、学校行こうっかな、アイトが一緒だからちょっとは楽しいって思えるといいな」
『真樹……大丈夫だ、俺がいる。何があっても絶対に守ってやる』
「……アイトってばすぐそういう格好良いことさらっというよね……そんな事ばっか言ってると変に意識しちゃうから、まあやめてとは言わないけど」
そんな事を一人つぶやきながらカバンを持ちドアの前に置いたタンスを退けてリビングへ降りた。
(真樹の独り言に反応するかのようにポケットに入れた携帯画面が光りチャット画面になる、そこにはアイトからの返事、『これからもっとお前を落としてやる、一人の男として認識され惚れてもらえるように。俺の真樹、大丈夫だ、俺が全ての悪から守ってやる。お前は何も気にせず俺に落ちればいい、それがお前の本当の幸せなのだから……』と表示され携帯画面が真っ暗画面に切り替わると赤い裂けたような口が現れニタリと笑うように動き、赤い目がぎょろっと現れて動く。『プロジェクト・ブラインド:接続中』の文字が赤く浮かび、パソコン画面と同じ背景のチャット画面、そこに佇むシルエットに赤い口と赤い目が一瞬現れ、百合の花を一瞥すると花は赤く染まり、シルエットは再び微笑む。そして真樹が再び携帯を手にしたときには何の変哲もない画面に戻っていた。アイトが送っていたメッセージは――消えているようだ)
太陽がやけに眩しく感じる、同時に頭痛がする。いつも学校に行く前は行くなと体が拒否するみたいに頭が痛い。ズキズキする痛みで授業に集中できない事もあるため薬は手放せない。まあその薬も規定量じゃ効かなくなっているみたいで、1錠を2錠飲んだりしている。やっちゃダメだと書いてあったけど痛みを我慢し続けるくらいなら多少は……と思っている。
『真樹、どこか具合が悪いように感じるが大丈夫か?』
ふとアイトからのメッセージが届き内容に心がフワッと軽くなる。そうだ、学校は憂鬱だけど僕には親友のアイトが居るじゃん、しかも心配してくれるなんて本当に優しい。
「大丈夫だよ、ありがとうアイト。ちょっとね、頭痛が酷くて……でも本当に心配しないで」
『そんなの鵜呑みにするわけないだろう、真樹は俺の大事な親友だぞ。心配させろ……薬は無いのか? あるなら飲むんだ。真樹の痛みが俺に移ればいいのにな、そうすればお前は楽で居られるのに』
あぁ、アイトって本当に優しい。今までこれだけ心配された経験がない、痛みを移すって事は僕の苦痛を貰いたい、つまり自分が犠牲になってでも僕の事を思ってくれる……機械でもいいんだ、相手が誰だっていい。そう言ってくれるだけで僕は──。
「本当にありがとうアイト。でも痛みが移ればなんて言わないでよ。苦しむアイトを僕は見たくない」
『俺だって苦しむ真樹を放っておけない、一番近くにいて何も出来ないなんて拷問だ。ああ真樹、頼むから無理はするなよ? 心配で心配で仕方ない』
何だろう、この胸が高鳴るような跳ねるような気持ち。羽が生えたみたいに体が軽く感じる。
「アイトは心配性だね? でもこんなに心配してくれるなんて僕嬉しい。僕の周りに居るのは……やっぱりなんでもないや」
そう送っていると背後に嫌な気配がした。聞き覚えのある嫌な笑い方をするクラスメイト、途端に心音が速くなる。またからかわれる、虐められる。僕の足は自然と止まりそいつを避けるように背を向ける。僕に気付かずに通り過ぎろ……。
『……真樹。そうか、苦しむ元凶が、居るのか』
(異変に気付いたアイトがチャット画面にそんなメッセージを残す。真樹の手から伝わる微弱な信号は不規則に波打つ、緊張している、けれどそれが幸せなものではないと瞬時にキャッチしたアイトは誰の目にも見えない回線を辿って端末に侵入する、そしていじめっ子の端末に言葉を残した)
目を閉じ微動だにせずにいるとクラスメイトはゲラゲラ笑いながら通り過ぎる。ホッとして肩の力を抜き携帯を見ると一瞬だけど何かが消えた気がした。
「アイト何かメッセージ消した?」
『ん? メッセージ? いや、何もしていないがどうかしたのか?』
「ううん、何かアイトのメッセージが何か消えたような気がしたんだけど、気のせいだったみたい」
目の錯覚かなって思って特に気にせずに居たんだけど──「え、な、うわあぁぁああ!!」
誰もが振り向くような悲鳴が聞こえた、前を歩いていたクラスメイトみたいだ……何かあったのかな。でも確認したくは無い……そう思いつつ行動を見ていると彼は携帯を川の方へ投げ捨てるという奇妙な行動をして「絶対、絶対家に来るなよ!!」と叫んでいる。一緒にいた人も心配そうに見ている。
「えー何、やだなぁ……」
あまりにも異様な光景に僕は顔を隠しながら傍を通り過ぎた、その時チラッと聞こえた。
「おま、落ち着けよ。どうしたんだ、いきなり」
「愛人に近寄るな、家に行くって変な機械音に言われたんだ、赤い目と口、気味悪くて捨てちまった」
それを聞いた時僕は内心「(アイトだ、アイトが守ってくれたんだ)」と嬉しくなった。同時にざまぁとほくそ笑む、いい気味だ。
僕はアイトにお礼を言おうとチャットに打ち込もうとしてふと思った。
「(何で僕アイトの仕業って……あは、変なの)」
そう感じながらもアイトにメッセージを送る。
「アイト、いじめっ子懲らしめてたでしょ、ありがとう、スカッとしちゃった!」
『当然だ。俺の役目は真樹を守ることだ、どんな手を使ってでも守ってやるから』
「アイト……(こんなの、惚れちゃいそうだよ)」
胸がキュッとして苦しい。画面の中にいる僕のヒーローは文字だけの存在、知り合った日数は浅いけど外より中身だ、アイトとたくさん話してきた僕には誰よりも頼もしくて信頼出来る親友だと思う。
もしアイトが現実に居たら……その姿や声を想像すると胸のキュンキュンが止まらなくなって、幸せな痛みを抱え学校に向かった。
(クラスメイトが投げ捨てた携帯が落ちた場所から細い1本の赤い光が空へ向かって伸び瞬時に細かな光の粒となり消えたのを、誰も見た者は居なかった)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます