そして彼は終わらせた


「嘘だろ…?!」


 奴は咆哮を出さなかった。いやそれはもう頭がないのだから当然だ。

 頭が混乱している間にも奴はこちらに迫ってきている。


「あっぶねえ!!!」


 近くにある車や瓦礫を投げながらこちらに一直線に。

 何故だ…? 何故動ける…?



 頭以外にも脳みそがあるのか…?

 改造人間だ。もしかしたらということがある。

 現在俺は左腕が使えない。火傷のせいでリボルバーに手が張り付いて取れないのだ。

 ……そもそも折れてて動かすことができないんだけどな。


「近づくな!!!」


 ショットガンを数発放つ。だが体に当たっても少し仰け反るだけですぐにこちらに迫ってくる。

 逃げようと思っても駄目だ。

 奴の投擲は俺を狙う為ではなく俺の逃げ場を無くすためのもの。


 現に俺は奴の攻撃に動けずこうしてバリアの側に居た。

 本当ならこいつの攻撃を避けてすぐにでもバリアを開けたい。しかし奴が最初に投げてきた車が足止めになっている。

 あの車を退けようとしている間な間違いなく攻撃を食らい、俺は殺されるだろう。


 それにバリアが溶けた瞬間に中にいる奴らが攻撃をしてこないとも限らない。

 そうしたら俺は隊長ゾンビと攻撃してきた奴らに挟まれて、逃げるまもなく殺られる可能性がある。

 銃を使ってこないのはその事を考えてだろう。次第に瓦礫でバリアの周りが埋もれてきている。


「駄目だ止まらねえ!」


 奴がもう目の前まで来ている!!!


 何て速さ…。スタミナはともかく肉体はかなり消耗しているはずなのにピンピンしている。

 こちらに殴りかかろうと、奴は拳を構えた。

 当たったら間違いなく体が消し飛ぶ!


「ッ!!!」


 咄嗟に体を捻じ曲げ、ギリギリで回避する。

 俺は袋小路だと言うのに明らかに大雑把で下手くそな一撃。先程までの武術家が繰り出すような芯のある一撃では無くなっている。



 恐らく目が見えないから感覚で攻撃しているのだろう。

 次第に攻撃がどんどん苛烈になってゆく。

 攻撃を紙一重で躱し続け、奴に何度も斬りかかるが瓦礫のせいで動きにくく追い込まれていく。



「……あ!?」


 そしてとうとう。瓦礫に足を取られ一瞬動きがグラついてしまった。

 奴は頭がない状態でもその隙を見逃さない。


「しまっ!!」



 奴の行った行為はシンプル。



 ……だが、だからこそ強い。



「ぐわああああああああ!!!!」


 俺に対して全力のタックル。

 全身の骨が粉々になったと錯覚する程、異様な音を立て俺の体は吹き飛ぶ。

 だがすぐに俺の体は止まった。


「ぐふ……」


 瓦礫を壊しバリアにぶつかり、肺から空気が勢いよく放出される。

 そしてすぐに奴が到着。

 再びのタックルでバリアに押し付けられ、今の俺はサンドイッチ状態

 バリアの熱で次第に背中が焼けていく。


「ど……け!!!」


 抵抗するが力の差は圧倒的。

 更に強くバリアに抑えつけられ体がどんどん溶けていく。

 食いしばりすぎて歯茎からどんどん血がたれ、全身の筋肉から血管が浮き出てきた。




 だがそれでも結果は変わらない。


「あああああああああああ!!!!」


 次第に力が抜けていく。

 マグナムが張り付き、取れなくなった手で何度も殴りかかるが効果はない。

 限界がどんどん迫ってくる。






 その時だった。





「!?」


「今よ!!!!」


 奴の体が一瞬何かにぶつかったように横へよろけた。

 そしてその後すぐにリラさんとボブさんが何も無い空間から現れ、奴に銃弾を叩き込んでいく。

 車だ。スコッチさんが車で横から奴にぶち当たったんだ。



 今しかない!!!

 俺は攻撃が止まった今の内に上へと跳び上がった。

 奴の真上目掛けて着地する。


「きゃああ!!!」


「「うわあああ!!」」


 奴のパンチで車に穴が空き、光学迷彩が剥げた。

 運転席に居たスコッチさんが青ざめた表情に変わり、何度もアクセルを踏むが動かない。

 奴が拳で持ち上げているのだ。


「させねえよ」


 このままじゃ投げ飛ばされて三人共死んでしまう。

 恐らく今の俺じゃ隊長ゾンビは殺せないという判断なのだろう。

 だがそれは間違い。



 俺は持っている。奴を殺す方法を。



「ううあああああ!!!」


 火傷で手にべったりついたマグナムを皮膚ごと剥がし取る。そしてマグナムを頭が吹き飛んだ事で現れた食道に突っ込む。

 突然の事で驚いたように大暴れし、奴は俺を地面へと叩き落した。


「……もう遅い。終わりだ!」


 マグナムの引き金には罠を張る時に使った鉄の糸があり、銃口には俺の皮膚を埋めておいた。

 俺は糸を使い引き金を引く。

 そして暴発が起きた。体内が吹き飛び、胴体付近から脳の破片が飛び散る。

 どうやら動けた理由は頭の他にも胴体に脳みそを入れてあったからなのだろう。


 正直突っ込みたいことは多い。

 だが科学の力が凄かったんだと疑問を飲み込み、今はバリアに鍵を入れることに集中した。



 俺を苦しめたバリアが音を立てて消えていく。

 その時、トラックの中から研究員と思わしき白衣を着た男達が銃を持って現れる。


「死ねえええ!!!」


「化け物が!!!」


「させるかあああ!!!」


 自分達の行いを棚に上げ俺に襲いかかる研究員達の前にもう一つ。光学迷彩が剥げ、ボロボロになった車が立ち塞がる。

 車を運転していたのはジャーナリストのヘンリーさん。

 更に車の中から警官のクラウドさんとジャックさんが現れ、研究員達に銃撃を浴びせる。


「速く中に!」


「ここは俺達に任せろ!」


「ありがとう!!」



 研究員達を足止めして貰っている内に急いでトラックの中へと入る。

 中には待ち伏せしていた奴がいたが一撃で頭を粉々にして先へと進む。


「ぐう……!」


 攻撃をするだけでも体が痛くなる。

 体が自身の攻撃による衝撃を耐えることができなくなってるんだ…。


 膝をつきそうになるのを堪え、一番大きくて大量のコードが付いている装置に大事に保管していたUSBをぶち込んだ。

 何か機械が動く音が聞こえだし、銃撃音がどんどん減っていく



「「「うおおおおおおおお!!!!」」」


 そして歓声が聞こえた。


 俺はフラフラの体を起こして外へと出る。

 外に大量にいたゾンビ達は皆バタバタと倒れだしていた。




 不意にずっとポケットに入れていたスマホがマッサージ機のごとくビービーと鳴り出し始める。

 驚きスマホを取るとそこにはゼミのメンバーからきた大量のラインやニュース。親からの不在電話と言った大量の通知が一斉に流れてきた。






「………………やった」


 涙が溢れる。俺はやった。やり遂げだんだ。

 終わった。大量の人間が死に、ゾンビへとなったこの事件は終わったんだ。



 俺は空を眺める。



 死んでいった仲間達が俺の姿を見て微笑んだような気がした。






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