崩壊の始まり
脱獄囚最後の一人が見つかった。場所は太平洋のど真ん中に隠されていた無人島。
そこに脱獄囚の中で最も凶悪と呼ばれている、かつて世界最高の頭脳を誇っていた博士が隠れ潜んでいた。
「……これでヘレティックも解散か」
「そうだね……」
まだ数年の仲。だけど俺達の間には家族同然と言える程の絆があった。
もとより分かっていた。ヘレティックは脱獄囚を捕まえるために各国が生み出した傭兵団。
脱獄囚を全員どうにかしたら自動的に解散になることぐらい。
……だけど
「寂しい……な」
ふと声を漏らしてしまう。本当に楽しい日々だった。辛い事も多かったがそれを乗り越えられる仲間達に会うことができた。
俺にとってこの数年は何物にも変えられない日々。色褪せることのない思い出なんだと。そう心の底から思える。
「…………あ」
そこで気づいてしまう。今俺の横に彼女が……医師が居ることに。
「…………へぇ? そんなふうに思ってくれてたんだ」
「あ! あ、ああ…………忘れてくれない?」
「やだ。暫くイジってやる」
「ああ終わった……。皆にバラされて広まるんだ……」
絶望に打ちひしがれていたその時、スピーカーからザーザーとノイズ音が鳴り出す。
そしてその後すぐに隊長の声が聞こえてきた。
『先遣隊より報告があった! これより緊急ミーティングを行う! 今すぐミーティングルームに来てくれ!』
「勇気!」
「ああ。よし行くぞ!」
「ええ!」
俺達はミーティングルームへと向かう。ヘレティックのアジトは国連により提供された無人島の一つを丸々使った物で、そこらの要塞を目ともしない。
核ミサイルにも耐えられる素材で作られており、教授や芸術家、発明家と言った才気溢れたメンバーにより作られたギミックの数々は世界に一つしか無い圧倒的な性能を誇る。
過去三回も攻められたことがあるがその全てを返り討ちにしてきた。
戦艦を粉砕するレールガンや島全体を操作する装置等。映画もでも見ることができない特殊機能の数々。
何度か国連に怒られて、皆泣く泣く装置を破壊したのは今でも覚えてる。
「万能者到着しました!」
「同じく医師! 到着しました!」
「いきなり済まないな二人共。…これで全員か。それじゃあ先遣隊からの情報を話していくぞ」
先遣隊が得た情報が話される。拠点に居る兵隊の人数。武装や地形。そして博士が作り出している恐ろしい発明品について。
「今回の最優先事項は二つ。博士の殺害と彼が作り出した発明品。記憶消去薬の排除だ。この薬は注射されると人の脳にある記憶細胞を破壊。特定の記憶だけ消すことができるという恐ろしいものだ」
隊長が全員が集まる机の上にあった透明な板に動画を出す。
拘束された人間が中心部のベッドに寝かされており、銀色のドロドロした液体が入っている注射器を打ち込まれる。
『あああああああああああ!!!!!!』
皆が思わず顔を顰める程悲痛な悲鳴をあげる実験体。ビクビクと拘束具を壊すのではと思えるほど痙攣し、目の焦点が何処かに行く。
その様子が十秒程続き、ようやく実験体は静止した。しかし何やら様子が変だ。
今度は生きているはずなのに一切動かなくなる。生きているはずなのに息をせず、かといって暴れることもない。完全な静止が訪れた。
「奴らは実験体から動くと言うことを忘れさせた。だから息もせず、苦しみ暴れること無く死ぬ。……これだけでも恐ろしいが最も恐ろしいのは消す範囲の広さだ。これを見てくれ」
現れたのは一人の男の経歴と動画。経歴では男は聖人と言っても過言では無い優秀な警官。
しかし動画では学校に潜り込み、子供達を虐殺していた。
「これはつい二日前に起こった事件の映像だ。聖人君子とまで呼ばれていた警官が起こした残虐な事件。この警官は事件を起こすまで行方が分からなかった。どうやら博士に誘拐されて薬を投与されたらしい。…そして善性を失った」
「善性を!?」
ザワザワと辺りがざわつく。一番驚いていたのは警部だった。良く見ると探偵も言葉を失っている。
頭の良い二人のことだ。これがどういう事を意味するのか即座に理解したのだろう。
「善性を失うと極端な思考になり悪事を働くようになる。現時点で十数件程事件が起きている。そしてこの薬なのだが…。現在空気散布できないかを研究しているらしい」
「もし感染したら……」
「ああ。未曾有の被害が出る。それに空気散布されたら防ぎようが無い。我々……いや世界が負ける」
全員の顔つきが一層厳しいものになった。
皆、隊長の言葉が頭から離れないのだろう。俺も同じだ。
あの薬はとても恐ろしい。完成前に叩かないと確実に負ける。
今回は突入メンバーを複数に分け、同時に攻撃。その間に先遣隊が薬を奪取という計画となった。
俺は空からの奇襲部隊に選ばれた。レーダーに映らない特殊装甲。光学迷彩付きのオスプレイに乗り目的地へと向かう。
内部では皆無言だった。何かを喋ろうとして…でも喋れない。
今回の任務が今まで以上に危険なのもあるが、一番の原因はこれを気にヘレティックが解散になるというのが主だろう。
俺もそうだ。何か喋りたいけど上手く言葉にできない。もどかしい空間が広がっていた。
「ねえ…皆」
そんな中口を開いたのは探偵だった。彼女は少し考えるような素振りをした後、再び話しを始めた。
「この任務が終わったら……皆国連の監視下で生活する事になる。僕達はそうしたらもう二度と…会うことはできない」
何を今更。思わず声を出そうとした時、探偵は懐からバッチのようなものを取り出した。
「これは発明家や芸術家と一緒に作った通信機。これを使えば国連にバレること無く皆と連絡を取ることができる優れものだ。……いる人は手を挙げてくれ」
「私いる!」
「俺もだ!」
この場にいる全員が手を挙げた。隊長や諜報員と言った国側の人間も嬉々として挙げている。
探偵は立ち上がり全員にバッチを手渡ししていく。そして俺の前まで来た。
「勇気もはい。これをあ……げ……?」
「探偵?」
突然探偵が固まった。どうやら俺の上にある窓を見ているようだ。
何かあったのか聞くために声をかけようとしたその時、無言で俺のシートベルトをナイフで斬り俺を吹き飛ばした。
「!?」
声を出す暇すら無かった。声が出そうになった時にはオスプレイが真っ二つに斬られる。
目の前にいた探偵は避けきれず頭の一部が斬れた。生きているかは……分からない。
何者かが俺達の乗っているオスプレイへと降り立つ。その者はこの場にいる誰もが知る人間だった。
「剣士……? まさか薬を!?」
「我は修羅なり。我が妖刀に血を捧げよ!」
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